SEIKO  HEART BEAT Magazine スポーツを通して人生の時を豊かに

文 矢口あやは
写真 近藤 篤
イラスト 池田鉄洋

ポヨヨンとはずんで楽しい「トランポリン」。誰もが知るスポーツですが、世界クラスの競技となると……あれっ、どんなことを競うの? ルールは? 見どころは? 意外と知らないこのスポーツの魅力と楽しみ方を、トップアスリート・棟朝銀河選手が教えてくれました!

棟朝選手 写真

棟朝選手といえば、幼少期に体操の習いごとを通じてトランポリンの道に入り、2016年「リオデジャネイロ五輪」男子個人では日本選手最高タイとなる第4位に入賞。難度点18点台をマークという日本人初の偉業を成し遂げています。

そんなトランポリン界の期待の星に、ダイナミックなジャンプに人間ばなれした華麗な技、わずか20秒の競技時間など、私たちの想像をピョーンと跳び超える空中芸術の世界を案内してもらいましょう。

まるでスパイダーマン!? 高さ8mのスーパージャンプに注目

トランポリンの映像(外) 動画

これは、横浜赤レンガ倉庫前で2018年に棟朝選手が撮影した映像です。これはどのくらいの高さまで上がっているんですか?

これは遊びだったから、5mくらいですね! 本気のときは1秒間で8mに達します。競技では高く上がれば上がるほど評価されるんですよ。

上手に高さを出すには、垂直にまっすぐ跳ぶのがコツ。角度が0コンマ何度かずれただけで、台から跳び出していっちゃうんです。

トランポリンで高く跳ぶ イラスト

マンションだと1階あたり3メートルとすると、およそ3階までの高さまで跳びます

大胆な跳びだしの裏側ではコンマクラスの繊細なコントロールがなされていたんですね。ところで、連続宙返りもスゴイ! 見てるだけで目が回っちゃいそうです。

確かに、ずっと目を開けていると酔っちゃいますね。だから、カメラでシャッターを切るときのようにパッと一瞬だけ、一点を見るようにしているんですよ。こうすればどんなにグルグル回っても平気です。

かかる負荷は体重の10倍! 実は過酷な競技だった

棟朝選手 写真

⸻ 8mの高さまで命綱もなく身一つで跳んで演技をする……。よく考えたらスゴイことかも。やっぱり怖いんでしょうか?

いえ、恐怖はそれほどないんです。というのも、いきなりこの高さまで跳んでいるわけではなく、練習を重ねてだんだん慣れていったから。

でも以前、たまたま体育館の天井の梁を掴んじゃったことがありました。一度止まって見まわすと、めちゃくちゃ怖かったんですよ(笑)! 「マット敷いてくださーい」って頼んで、やっと着地しました。

棟朝選手 写真

想像するだけでも背筋がゾクゾク! 高さ8mから落ちるという体の負担はちょっと心配ですが……。

そう、トランポリンってかろやかに見えて、実は体への負荷が大きい競技でもあるんです。着地のときにかかる負荷は、体重の10倍以上! だから、着地の瞬間は重力と風圧と踏ん張りですごい顔になっちゃいます(笑)。

それでも跳んでる瞬間はまさに非日常! 生身のまま8mの高さまで跳べることってそうありません。人間が普通はできないことを可能にしていく面白さがあります。

棟朝選手 写真

湿気によって跳ぶ感覚が変わっちゃう!? トランポリンの舞台裏

トランポリンの図解 イラスト

トランポリンって丸いイメージがありましたが、競技用は四角いんですね。

はい、横4.28m(±6cm)縦2.14m(±5cm)の弾力性の強いネットを張ったものが使われます。面積でいえば、2.5畳くらいでしょうか。

中央の赤い十字マークの付近は、最も深く沈み込むため、より高く跳べるゾーンです。ちなみに、演技中は青いマットに体が少しでも触れてしまうと失格になります。

棟朝選手 写真

サッカーの場合は、開催場所によって芝の状態が変わったりしますね。トランポリン競技の場合は?

一般的な大会では、ドイツメーカーのものが採用されています。ぼくが普段から跳び慣れているのもこれ。ただ、大会によっては異なるものが採用されることもあって、緊張しますね。

そもそもトランポリンって使用年数や保管場所でもタッチの感覚が変わるんです。とくに影響するのが湿度。ネットの部分が湿気を吸い、重くなって、踏んだときの感覚が変わるんですよ。だから試合前の練習の時に晴れていたのが、大会当日に雨が降るとちょっとユウウツです。

跳び出す瞬間にコンマのコントロールを行っているからこそ、ネットの状態が大きく影響するんですね。パワフルで大胆な一方で、とてつもなく繊細!

口笛で到着をお知らせ!? トランポリン選手の意外な日常

棟朝選手 写真

もともと棟朝選手がトランポリンに出会われたのは幼稚園時代とか。どんなことから覚えていったのでしょう?

「トランポリンといえば宙返り」というイメージがありますが、実際の練習はもっと地道。初心者のうちは頭が重心よりも下に入る技は全面的にNGで、まずは足だけでなく、お尻やお腹でも跳べることを学んでいきます。今でも8mの高さからお腹で落ちて弾む「腹落ち」という技をよく使いますよ。

日々の練習はどのように?

体への負担を考えて、実際にトランポリンを使う練習は、長くても2時間くらいです。地上で筋トレをしたり、体幹トレーニングをしたりするのがメイン。大会前などは跳ぶときのリズムを体に叩きこんで、無意識に演技ができるくらいまで仕上げます。

僕にとってはトランポリンって、『リズム天国』や『太鼓の達人』といったゲームにちょっと似ているんですよ。決まったリズムで体を動かせると、演技がうまくいくんです。

とくに大会の前になると、いい演技ができた時のムービーを見て、その時のリズムを体にインプットして、シミュレーションを繰り返します。

リズム天国のイメージでリズムを体に刻みつける棟朝選手 イラスト

リズム天国のイメージでリズムを体に刻みつける棟朝選手

リズムが重要なんですね! トランポリン選手ならではの職業病はありますか?

あります! トランポリン選手はみんな、演技をするときは呼吸を止めないことを意識して、ピューッと口笛を吹くのですが、これがクセになっていて、私生活でもけっこう吹いちゃう。

たとえば人混みでトランポリン選手と待ち合わせたとき、遠くからピュッとやると、トランポリン選手だけが反応して「あっ、きた!」と察してくれます(笑)。

トランポリン選手あるある「人混みの中で口笛を吹く」 イラスト

トランポリン選手あるある「人混みの中で口笛を吹く」

普段の生活で、跳びたくなったりしませんか?

いや、練習で十分跳んでるから、基本的には地上が好き! でも普段、ちょっとした距離を移動するときは「ここにトランポリンがあったらなぁ」と考えることがあります(笑)。ピョーンとひとっ飛びだから!

華麗なる20秒の空中戦! トランポリン競技の得点方法は

ぜひ競技としてのトランポリンについても教えてください! そもそも競技ではどんなことを競うんでしょう? 

簡単にいうと、「トランポリンの中央で、いかに高く、美しく、10本の宙返りをして、バシッと着地を決められたか」を競っています。

<トランポリン競技の評価軸4つ>
・演技点(Execution)
・難度点(Difficulty)
・跳躍時間点(Time of Flight)
・移動点(Horizontal displacement)

棟朝選手 写真

得点方法を知っていると、より観戦が面白くなりそうですね! 初心者は何から見ればいいですか?

最初は「跳躍時間点」と「移動点」がわかりやすいと思います! 得点方法を説明すると、「跳躍時間点」は、滞空時間1秒につき1点が与えられるというもの。高く跳ぶほど滞空時間は伸びます。10本すべて跳んで、かかる時間はおよそ20〜21秒*ですね。

※演技全体の時間が20-21秒、跳躍時間点の対象となる対空時間の合計はおよそ18秒

棟朝選手 写真

一方、「移動点」はトランポリンの中心で演技を行えたかどうかを採点するものです。決められた小さな赤枠(ジャンピングゾーン)の中に着地できれば得点となります。

とはいえ、空中でちょっとでも傾いたり、姿勢を崩したりすれば着地点がずれてしまうもの。ジャンピングゾーンの内側に着地するのは至難の技なんですよ。

もし着地できたら拍手喝采というわけですね! 「演技点」や「難度点」についてもぜひ教えてください。

「演技点」は姿勢の美しさや安定感などを採点するもの。たとえば、主な姿勢には次のようなものがあります。

空中の姿勢「タック」「パイク」「ストレート」 イラスト

タック(抱え込み)で姿勢が大きかったり、ストレート(伸身)で膝が曲がっていたり、足がばらけていたりすると減点に。最終的な着地もピタッと静止する必要があり、最後まで気は抜けません!

上記の姿勢に回転やひねりを加えることで、技の難易度が上がります。そこを評価するのが「難度点」です。

トランポリンの技 動画

たとえば、難度点が高いのは、上のムービーの16秒目~27秒目。
8番目~10番目のジャンプを行っているところです。

具体的に言うと、
8番目は「タックハーフインハーフアウト」
(後方抱え込み2回宙返り1回ひねり)。
9番目のジャンプは「レイアウトフルインルディーアウト」
(前方伸身2回宙返り2回半ひねり)。
10番目のジャンプは「レイアウトミラー」
(後方伸身2回宙返り3回ひねり)

縦回転では体を小さく抱え込み、横にひねるときはまっすぐの棒のような姿勢を心がけます。そうすると回転するスピードがグンと速くなり、たくさん回れるんですよ。

時間にすればたった10秒、高さもある中で、難度の高い技を繰り返し行っていたんですね!ほかにも棟朝選手が個人的に面白いと思う見どころはありますか?

試合中も口笛はちょっと面白いですね(笑)。得点にはならないのですが、呼吸のコントロールを兼ねて吹く人が多く、ピィーッと高らかに鳴らす人もいれば、口笛じゃないナゾの音を出している人もいて、聴いてみると楽しいですよ!

棟朝選手 写真

棟朝選手は2019年に行われた世界トランポリン競技選手権大会男子シンクロナイズドで金メダルを獲得

また、トランポリンは「個人競技」のほかにも、2人が同時に空中演技を行う「シンクロナイズド競技」、チームになった4人の合計点で競う「団体競技」があります。こうしたチーム戦も見応えがありますね。

ちなみに、トランポリンの観戦マナーはありますか?

マナーは他のスポーツとほとんど同じなのですが、声援のタイミングだけは要注意かもしれません。というのも、選手の演技中にコーチが声をかけると減点になってしまうから。

まぎらわしい声を出さないように、演技中は静かに見守るというのが暗黙のルールとなっていますね。声援を送るなら、選手が台に乗って跳び始める瞬間がベストタイミングです!

棟朝選手 写真

最後に、世界の大舞台で戦い続ける棟朝選手が今、新たに伸ばしたいと思う能力はありますか?

実は、これから新しく得ようと思うものはあまりないんです。大会で使う技は高校生くらいでほぼ揃えているので、今あるものの完成度を高めることが今の一番の目標。

姿勢の大きさや手の位置など、細かいところをやり切ることでまだまだ精度を上げていけるはず。とくにここ数年は自分の思う演技ができないことも多いので、調子が良かった4年前の演技構成を取り戻せるように練習を積んでいくつもりです!


トランポリンは五輪の競技であるのはもちろん、トップアスリートが集うものからちびっこが出場するものまで、全国でさまざまな大会が行われています。

手に汗を握るアクロバティックな跳躍と磨き抜かれた演技は、生で見ると感動もの。
皆さんもぜひ、このドキドキを会場で。きっと、忘れられない体験になるはずです。

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