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文 村上アンリ
写真 近藤 篤

競泳の坂井聖人は昨年の日本選手権で結果を残せず、代表から外れ挫折を味わった。怪我と肩にできたガングリオンにも苦しんだが、「怪我をしたことでいい経験を積めたのも事実」と、持ち前のポジティブさで、2019年後半は背泳ぎで自己ベストを出した。

どんな時もベストを尽くし、輝く2020年に向けて道筋は一つ。たどり着く先には何が待っているのか?4月1〜8日に行われる日本選手権水泳競技大会へ向けた目標と、その先の大舞台への心境を聞いた。

坂井聖人 写真

選手として初めて挫折を味わった2019年

今現在の調子はいかがですか?

2018年に痛めてしまった肩もかなり良くなってきて、調子はずいぶん上がってきました。

まず2019年はどういう一年でしたか?

4月の日本選手権でタイムを出せず、代表から外れてしまったのはやはり悔しかったです。いくら肩を怪我していたとはいえ、最低でも代表の座は確保できるだろうと考えていました。でも、結果はその最低よりもさらに下でしたね。

坂井選手は順調にキャリアを積み重ねて来た という印象がありますが、2019年は急ブレーキがかかった、そんな印象ですか?

今までが良すぎた分、一度調子が狂ってしまったところから這い上がる、その作業が難しかったのは事実です。

坂井聖人 写真

選手として初めて味わった挫折、と言ってもいいのですか?

中学2年生のときに、2種目にエントリーして両方とも予選落ちした。あのときはかなりの挫折感を味わいましたけど、その時よりも今回の方が挫折感が強いです。精神的なダメージが大きかったですね。2019年は前年よりもポジティブに考えられるようになりましたけど。

ジャパンオープンで泳ぎ終わった瞬間、電光掲示板を見上げ、タイムを目にして、ずいぶんがっかりされていた印象があります。

コンマ何秒で代表権を逃してしまいましたから。タッチしたとき、自分の中では代表に選ばれるために必要なタイムは切れている、と思っていた。それが切れてなかったことは相当ショックで、なんか水中で浮かんじゃいましたね。

坂井聖人 写真

坂井聖人を支えてくれた人々

リオで銀メダルを獲ったあと、燃え尽き症候群になった時期があったのですよね。

それは2017年あたりです。日本選手権まではタイムも良かったんですけど、何も考えないで練習に取り組むようになり、上を目指したいという欲もいつのまにか失ってしまっていました。その年の世界水泳に出場して、こんな気持ちのままでは上を目指せるわけがない、と気づき、もう一度気持ちを元に戻しはじめたんですが、次は怪我。肩にガングリオンができたんです。

2019年はそんな一連の悪い流れが一周した年のようにも思えます。

そうですね。後半には日本短水路の試合に出場して、バタフライは泳がなかったのですが、背泳ぎで自己ベストも出ました。2021年あたりで背泳ぎでも狙っていきたいなという目標もありますからね。今はもうポジティブに物事を捉えられていますし、かなりの強度でトレーニングもできています。怪我をして良かったとは思いませんが、いい経験を積めたことは事実です。

坂井聖人 写真

いろいろなことがうまくいかない期間、坂井選手を支えてくれたのは?

やはり周りの友人たちやコーチの皆さん、あるいはケアのため通っている治療院の先生だったり……。治療していただいているとき、本当に楽になれる言葉をくれるんです。調子悪いときって、誰から何を言われても右の耳から左の耳へスーッと抜けていく感じですけど、先生に言われると、ああ確かにそうだなあって思えたりしますから。

例えば?

例えば、代表落ちしたとき、こう言ってくれたんです。「確かに代表落ちはしたし、周りはそのことについてどうこう言うかもしれないけど気にしなくてもいいからね。だってあなたは2020年に輝くために生まれて来たんだから」って。それまでの僕は、一年一年結果を残すんだ、って思い詰めていたところもあったんですけど、以降ずいぶん気が楽になりました。そうだな、2020年に輝けばいいか、と。

私も会いに行きたくなりました(笑)

でも施術の方はむちゃくちゃ痛いですよ!(笑)

坂井聖人 写真

「純粋に、メダルを獲りたい」

この2年間で自分自身変わったな、と思うところはありますか?

ありますよ。学生だったころは、練習が始まる5分くらい前に行けばいいや、っていうノリでしたけど、怪我をしてからは、20分くらい前には行って、まず一人でしっかり身体を動かし、そこから全体のトレーニングに入っていくという習慣が、いつのまにか身につきました。ストレッチとかも以前はやっていませんでしたから。ほんと、子供だったなあ、って思います。水泳に取り組む姿勢も意識も変わりました。とりあえず目立ちたいから頑張る、みたいな感覚もなくなりました。

じゃあ今は何のために頑張れているんですか?

純粋に、メダルを獲りたいから、です。目立ちたいからメダルを獲る、じゃなくて、ただメダルを獲るために努力をしているだけです。

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栄養面でもかなり気をつけるようになったそうですね。

はい。これまではトレーニングしている早稲田大学の周りで食事をすることが多かったんですが、今は国立スポーツ科学センター内で食事管理をしてもらっています。それもコンディションも上がって来た理由の一つですね。食事制限、最初は本当にきつかったです。僕は甘いものと脂っこいものが大好きで、むしろそういうものしか食べていなかった。唐揚げの食べ放題とか(笑)。だからですかね、今でも毎日健康的な食事をしていると、たまに胃が脂っこいものを無性に求めて、なんかムカムカするんです。だから10日に1回ぐらいですけど、ハンバーガ−とかは食べに行ったりします。

坂井聖人 写真

オフでの気持ちの切り替えもスポーツ選手にとっては重要ですよね。先日チームセイコーの山縣亮太選手にインタビューした際、最近ピアノを始めたとおっしゃっていました。

ピアノですか! 僕は暇なときはYouTubeを見ながら、ボイスパーカッションの練習してますけど(笑)

先日SNSにギターの写真をアップされていましたけれど、ギターとか他の楽器を演奏されたりするんですか?

いえいえ、以前ギターを弾けるようになったらかっこいいなと思って購入したんですが、住んでいたところが楽器NGで、すぐに練習しなくなっちゃいました。僕は基本的にそういうのは向いていないですね。

坂井聖人 写真

坂井聖人が目指す2020年

では、坂井選手が一番向いている水泳の話に戻したいと思いますが、2020年の舞台に向けて、ご自身の中で道筋は見えていますか?

はい、見えてますよ! 4月の日本選手権で出すタイムも、そして本番で出すタイムもすべてイメージできています。そしてその段階を一歩一歩しっかりクリアしていけば、確実にメダルは獲れるはずです。

その、日本選手権で出すとイメージしているタイム、あるいは8月の本番で出すタイムって、具体的な数字として口に出してもらえますか?

はい、もちろんです。まず日本選手権は53秒4、これは僕の自己ベストタイムです。そして続く東京では、日本新記録を出したい。東京という舞台で僕が書きかえ、なおかつメダリストにもなりたいです。いや、なります。

坂井聖人 写真

以前もおっしゃっていましたけれど、気持ちの持ち様は大事ですよね。

僕自身はけっこう上のレベルの選手に対してもずっと、絶対に勝てるんだ、と自分に言い聞かせながらやってきたんです。すると本当に追いつきましたからね!

本番まであとわずか、今の率直な心境を聞かせてもらえますか?

まあここからはとにかく自信を持って進んでいくしかない。メンタルがネガティブな方向に向かうと、僕はタイムが悪くなりますから。確かに調子が悪いときだって本当はあるんですよ。でもそういうときでも、あえて気持ちをポジティブな方向へと引っ張ってゆく。自信を失わず、これまでやって来たすべてを目の前のレースにぶつける、そうすればバッチリです。

必ず2020年の本番で輝きたいです。その為に日本選手権は自分のベストを尽くし、2020年の切符を掴めるよう、残り少ない日数を全力でトレーニングに取り組みたいと思いますので、ご声援の程よろしくお願い致します!

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