2019年、東京マラソンにエントリーし参加費を支払い、あのコースを駆け抜けた出場者たち……。いわば主役とも言えるランナーたちの陰で、タイマーを管理するセイコー(SEIKO)の『タイミングチーム』が活躍していたことをご存知でしたか? 彼らに密着して、東京マラソンの裏側をレポートします!
こんにちは、ライターのみくのしんです。ジモコロでは森羅万象、さまざまな職業を実際に体験してレポートする、一日職業体験シリーズを書いております。
例えば―

冷凍倉庫での作業や……

とんかつ屋での調理バイトなどです。
さてさて、第9回となる今回は、一体何を体験するのカナ?
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ズドドドド……

ドドドドド……!!!

※セイコーは東京マラソン2019のオフィシャルタイマーです
今回は、東京マラソンを影で支えるセイコータイミングチームのお仕事を体験します! 冷凍倉庫やとんかつ屋から、急にマラソンの大会……? そんな文脈ある?
っていうか、
タイミングチームってなんぞやー!?

「タイミングチームというのはですね……」

「誰!?」

「はじめまして。セイコーグループ株式会社の塚田です。タイミングチームというのは、陸上競技や水泳など、さまざまなスポーツの試合でタイムを計るという、大事な役割を担うメンバーの事です!」

「セイコーって時計を作ってるだけじゃなくて……その技術をスポーツの大会などに使用しているんですね」

「その通りです。ほら、この写真をご覧ください」



「セイコー製のタイマー!!!」

「セイコータイミングチームは、このように国内外問わず、巨大なスポーツの大会を、影で支えているチームです。今回、みくのしんさんには東京マラソンで、タイミングチームとしてのお仕事を体験していただきます」

「体験取材で、いきなりそんな国際的な大会を手伝うの、めちゃめちゃ緊張するな……それで、当日は何時集合でしょうか?」

「いえ、準備がありますので前日の朝から2日間のお手伝いになります」

「2日間!?」

東京マラソン前日|始業開始からお昼休みまで

と言うわけで、今日は3月2日。東京マラソン前日の朝9時半です。明日の東京マラソンは都庁前からスタートします

「おはようございます。まずはこちらのウェアに着替えてください」

「これは……!」

といって手渡されたのは、セイコーのスタッフウェア。背中の「SEIKO」文字がキマってるゥ~!

どうですかこれ~!? かっこいい~! 普通に販売してくれ~!

「では、そろそろ車が来たので、早速作業のほうよろしくおねがいします!」

「車?」

ブゥウ〜ン……

続々と車が入ってきて、巨大な駐車場はみるみる「計時車」と書かれた車でいっぱいに……


「この大量の車は…?」

「コレは明日の東京マラソンで活躍する『計時車』です。ランナーが走ってる最中にタイムを確認するための大きな時計(タイマー)がありまして。それを5km間隔で設置するんですが……」

「え、マラソンって42.195kmあるから、最低でも8個か9個必要ってこと?」

「はい。大きな時計をひとつひとつ現場に持っていって、その場で設置作業をすると、時間も手間もかかってしまいますよね? そこで、車の屋根に時計を乗せて現場に駐車することで……いわば車が時計の設置台になるわけですね」

「なるほど……。でも今のところ、屋根の上には時計なんか乗ってませんけど」

「今から取り付けるので、その作業をみくのしんさんに手伝ってもらいます。タイマーは特注品なので、取扱いには気をつけてくださいね!」

ちょうどスタッフの方が移動させてました。これがタイマー。テレビでよく見るやつですね。結構重そう……?

「ちなみにタイマーの重さは約33kgあります」

「びっくりした! 突然だれですか!」

「はじめまして。東京マラソンにおけるタイミングチームのリーダー、内藤です」

タイミングチームはプロジェクト毎にリーダーが立てられます。東京マラソンのリーダーはこちらの内藤さん。よろしくお願いします!

「では、みくのしんさんに手伝ってもらう箇所を説明していきますね」

「わ、わかりました!」


「まず、タイマーを車にセットするための足を取り付けます」

「ほうほう…」


「足が付いたら車の上に乗せるんですが……傷つけないように毛布を敷いてから乗せてください。あとはしっかりとボルトで固定したら完了です」

「余裕じゃん! じゃあさっそくタイマーを運びますね」


「…って重っ! あのー! ちゃんと力入れてますか!? 重い重い重い!」

「33kgを二人で持つので、単純計算したらひとり16kg程度なんですけどね。どこかにぶつけたら“終わり”だと思うと、実際以上に重く感じちゃいますよね」


「ここに足を取り付けるんですよね? コレはマジで簡単」

「めっちゃ手際良いですね」

「楽勝~! で、車の屋根に毛布を敷いて、その上にタイマーを乗せ……乗せ……?」


「重い重い重い重い重い!!」

「あ、ちなみにそのタイマーは特注品なので、車一台分くらいのお金がかかってます」


「今その話する!?怖い怖い怖い怖い怖い!」

「車だってもちろん高価なので気をつけてくださいね」

「今 言うなって!!!」
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結局、他のスタッフの人に手伝ってもらいました。あぁ、怖かった

「このタイマーってやけにデカイんですけど、エネルギー源は車のバッテリー? 1.21ジゴワットくらいの電流じゃないと電力が足りないのでは?」

「見てみます?」

パカッ

「え!?単一電池が8本!? こんなもんでいいの??」

「良いリアクションですね。そうです。単一電池8本で動いています。これでつけっぱなしにして丸一日くらい動きます」

「こんなに大きい液晶にデジタル表示するんだから、半日くらいで電池が切れるんじゃないかと心配しちゃった」

「あ、このタイマーは液晶じゃないですよ? 数字もアナログです」

「え?」


「筒のようなものの前面が黄色、背面が黒で塗られていまして、それがくるっと回ることで数字を表示しているんです」

「うわ!本当だ!普通にデジタルかと思っていました」

「液晶だと正面に近い角度じゃないと見にくいし、日差しによって視認性が変わってくるので、あえてアナログなんですよ」

「なるほど~」

すべての車にタイマーをセットした状態。圧巻!

「本番はすべての時計が同期され、誤差なく時間が表示されます」

「コンマ1秒すらズレちゃダメなんでしょうね。めちゃシビアだな……」

「さて、スタート地点(新宿都庁付近)での作業は終わったんで、今度はフィニッシュ(ゴール)地点(東京駅付近)に移動しますね。その前に、そろそろお昼なので、ごはんを食べましょうか」

「もうそんな時間なんですね!やったー!」
お昼休み
お昼はタイミングチームのみなさんと一緒にごはんを食べました。
せっかくだから色々聞いてみましょう!


「午前中は意外と真面目にタイマーを取り付けてくれてましたね。ライターさんなので、もっとおもしろいことをしてくれるのかと思ってましたが」

「それは言わないで」

「いや、ちゃんと役立ってくれて助かりました」

「タイミングチームって何人くらい在籍してるんですか?」

「今日いない人を含めて10人くらいのメンバーでやってますね。コミュニケーションが一番大事なので、少人数で動いてるんです」

「ということは、タイミングチームに入るのって、かなり狭き門なんですかね?」

「他の部署に比べてテレビに露出することもありますし、世界陸上などで海外に行って仕事することもあるので、やりがいの面でもかなり人気の部署です」

「では、ここにいる方は、みんなエリートって事か……」

「意外と泥臭い仕事なので、エリートって感じではないですけどね~」


「とか言いながらアニメのキャラみたいに照れるじゃないですか。ちなみに試合や大会が無い時はどんな仕事をしてるんですか? みんなで釣りとかしてます?」

「仕事中に釣りはしません。試合がない時は、会社で企画や開発などをしていますが……正直、いつもどこかで大会があるので。暇な時ってあんまりないですね」

「忙しいからもう辞めたいってことはないんですか?」

「いえいえ、スポーツ史に永遠に残る記録に関われるこの仕事は、とてもやりがいがあって大好きです」

「なんてちゃんとした人間だ……。僕なんて、毎日ただ漫然とポケモンGOをやってるだけなのに」
午後の仕事~(前日の)業務終了まで

午後からは東京マラソンのフィニッシュ地点、東京駅で作業します

余談ですが、東京駅のこの時計、セイコー製だそうです。他にもテレビの時刻表示なんかもセイコーの仕事らしいです。すごっ

「フィニッシュ地点といえば、東京マラソンを走りきった人しかたどり着けないエリアですよね。僕みたいなモンが何をするんですか?」

「とりあえずセイコーテントに案内します。中にある機材の説明をしましょう」

これがセイコーのテント。ここでスタッフがさまざまな作業をします

何やら重要そうな機械が……

昔のSF映画のスーパーコンピューターみたいに、“何か”が印字された紙がジジジ……と出てきました

「これ何ですか? “能力者”のエネルギーを分析中?」

「違います。フィニッシュ地点やその他のタイマーを制御するためのものです。いわば東京マラソンにおけるタイミングチームの心臓ですね。これをお見せしたかったんです」

「たくさんのタイマーを制御しているので、この機械が壊れると、タイミングチームにとっては本当に致命的なんです。万が一を考え、予備としてもう一台用意してます。それくらいものすごく大事な機械で……」


「トゥクトゥク!イェイイェイ!」

「遊ばないで!」

というところで、一日目の業務終了ー! お疲れ様でーす!
ちなみにこの巨大なタイマー(車に乗せてたやつより遥かにデカい)は、通称『かまぼこ』と呼ばれています。
ランナーたちはこれを見てラストスパートをかけたりするそうです。家が一軒建つくらいの値段なんだって……すげっ

「前日の準備はここで終了です。お疲れ様でした! では明日、朝5時に集合でお願いしますね」

「はい! ……え、5時!? 朝の!?」

東京マラソン本番当日はこちら

ライター
みくのしん
本名、高杉 未来之進(たかすぎ みくのしん)と申します。それ以外の特徴は1mmもありません。1990年生まれ東京育ち、将来は大きい声を出しても良い部屋に住むのが夢です。ご検討の程お願いします。