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「知」「動」「音」 で歌舞伎を楽しむ!俳優、囃子方、脚本家が各視点で魅力を生解説した「時からの学び」

2023.8.24

「知」「動」「音」 で歌舞伎を楽しむ!俳優、囃子方、脚本家が各視点で魅力を生解説した「時からの学び」
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取材・文 佐藤梨香
写真 落合直哉

日本文化の魅力を再発見する「時と日本文化プロジェクト」。その第2弾として、歌舞伎を知り、楽しさを味わうプレミアムイベント「時からの学び」が、2023年7月にセイコーハウス銀座ホールにて2日間にわたり開催されました。

プロデュースを務めたのはセイコーグループアンバサダーの市川團十郎さん。イベントには、歌舞伎俳優の市川九團次さん、中村壱太郎さん、歌舞伎囃子方(はやしかた)の田中傳次郎さん、歌舞伎脚本家の今井豊茂さんの4名が登壇し、歌舞伎の面白さや奥深さを「知」「動」「音」に焦点を当て、初心者の方でも楽しめるようにそれぞれの視点からお話しいただきました。

今回のイベントでは、歌舞伎の歴史や成り立ちを紹介する「知」、“耳で楽しむ歌舞伎”と題した「音」、歌舞伎の代表的な所作の実演をする「動」による<知+音><知+動>の2種類のコースを用意。本レポートでは、全4回(各回50名様を招待)のイベントを振り返り、登壇者がそれぞれの立場で受け継いできた“時からの学び”をひもときます。

<知+音>動きや声の振動で歌舞伎音楽の“真髄”を体感

今井豊茂さん、田中傳次郎さん

(左から)歌舞伎脚本家の今井豊茂さん、歌舞伎囃子方の田中傳次郎さん

写真 落合直哉

<知+音>の回は、歌舞伎脚本家の今井豊茂さんが歌舞伎の歴史や成り立ちを解説する「知」のコーナーからスタート。

歌舞伎は江戸時代初期に出雲の阿国が始めた“かぶき踊り”に端を発し、遊女、若衆(成人前の若い男子)、野郎(成人男性)と、主体を変えながら現代まで伝承されてきました。パフォーマンスの軸は舞踊から芝居に変化しましたが、その過程でアクロバット的な要素を含む「軽業」や、俳優が客席の上を飛ぶ「宙乗り」など“ケレン”と呼ばれる演出が取り入れられ、現代の歌舞伎の基礎がつくられたと考えられています。

今井豊茂さん

大学などでも講師を務める今井さん

写真 落合直哉

「風紀を乱すという理由で幕府から取り締まりを受けた時期もありましたが、時代の波を乗り越え、変化し続けてきたのが歌舞伎。決まりごとが多く、とっつきにくいイメージを抱いている方もいるかもしれませんが、エンターテイメントとして思いのままに楽しんでいただければと思います」。

田中傳次郎さん

傳次郎さんは全国に35人しかいない「歌舞伎囃子方」の1人

写真 落合直哉

続いて“耳で楽しむ歌舞伎”と題した「音」のコーナーでは、田中傳次郎さんから「伴奏音楽」と「効果音」それぞれの役割が語られました。

「歌舞伎の中でも能舞台をまねた演目では、舞台正面に松が描かれているだけで背景に変化がありません。そのため、お客様は俳優の動きやセリフ、音楽や効果音をヒントに、頭の中でイメージを膨らませるわけです。鼓の『ポン』という音も、お客様の想像をかきたてる重要な役割を担っています」。

鼓を鳴らす様子

場面に応じて4種類の音色を使い分けている

写真 落合直哉

傳次郎さんは鼓を手に取ると「この鼓の胴は江戸中期につくられ、革も150年以上前のものを張っている」と解説。掛け声とともに鼓を鳴らすと、会場にはハリのある美しい音色が響き渡りました。

さらに、歌舞伎独特の“間“を表現するには、囃子方の掛け声が欠かせないことにも触れ「幼少期は演奏よりも先に“腹から声を出す“ことを特訓した」と、知られざる苦労を紹介。「ヨオッ!」「ィヨォ~~」など、裏声を使う繊細な掛け声は、先輩のマネをしながら鍛錬を積み重ねて習得したと語ります。

道成寺実演の様子

鼓と三味線のリズミカルな演奏は「ロック」さながら

写真 落合直哉

プログラムの最後には、女方舞踊の大曲である『道成寺(どうじょうじ)』の実演も。鼓と三味線の掛け合いが特徴的なこの曲について、傳次郎さんは「4拍子の縦ノリを感じられる曲で、ロックやジャズにも通じる高揚感がある。ポンと鼓をついただけで、足元から花が咲くイメージが沸きますよね」と魅力を表現しました。

田中傳次郎さん

手首の柔らかさも傳次郎さんの鍛錬の証

写真 落合直哉

演奏で物語に奥行きを生み出す囃子方、展開や演出に工夫を凝らす脚本家それぞれの視点から“歌舞伎がより面白くなる”エピソードが語られた<知+音>の回。来場者がビニールの皮を張った練習用の鼓を打つ場面もあり、日本文化の趣を肌で感じられる貴重な機会となりました。

<今井豊茂さんのメッセージ>

歌舞伎には400年の歴史がありますが、伝統文化=難しいと身構えず、エンターテイメントとして多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。歌舞伎の演出は映画やドラマなどにも随所に取り入れられており、知れば知るほど楽しくなるはず。お目当ての俳優さんだけでなく、ぜひ舞台全体に目を向けてほしいです。

<田中傳次郎さんのメッセージ>

囃子方の鍛錬は音、声そして居住まいに表れます。「囃子方は舞台の背景でなければいけない」という人もいますが、無駄のない動きや掛け声にもこだわって演奏しているので、歌舞伎をご覧の際にはぜひ囃子方にもご注目ください。歌舞伎は時代を超えて、高度な技が集結した舞台芸術。初めての方も、通の方も、目と耳を使って楽しんでいただければ幸いです。

<知+動> 隈取と所作を知れば、歌舞伎がもっと楽しくなる

<知+動>の回では、今井さんによる解説の後、歌舞伎俳優が実演を交えて、歌舞伎の所作や見得の特徴をレクチャー。2日間のプログラムの中で市川九團次さん、中村壱太郎さんがそれぞれ登壇し、解説と実演を披露しました。

七代目松本幸四郎の押隈

七代目松本幸四郎の押隈(おしぐま)

写真 落合直哉

「知」のコーナーは、歌舞伎俳優の隈取を布に写した押隈(おしぐま)の数々を例に、顔の色でわかる役柄の解説からスタート。

「赤は熱血、若さ、強さを示し“正義の味方”の隈取に使われる色。青は冷血な裏切者、茶色は鬼やもののけなど、色を見ただけで役柄の立場がわかります」と、今井さんに歌舞伎鑑賞の基礎知識を説明していただきました。

解説を聞いていた壱太郎さんからは「押隈は、汗をかいている時しかきれいに取ることができないんです」と意外な合いの手も。「短期の公演では押隈を取る暇もない」と残念がられていたのが印象的でした。

ばりい、じぐ、ざくの押隈

(上から)ばりい、じぐ、ざくの押隈

写真 落合直哉

今井さんが脚本を手掛けた新作歌舞伎「あらしのよるに」では、俳優が隈取の色の決まりを踏襲しながら、オオカミの隈取をデザインしたそうです。

「歌舞伎は何でもありと思われがちですが、脚本家も俳優も“型”と呼ばれる演出上の決まりごとを守ったうえで、お客様を楽しませるために工夫を凝らしています。人気の演出“宙乗り”も、主人公がなぜ飛ぶのか、飛んだ先で何をするのか、脚本に理由がないとダメなんです」。

「所作」の実演の様子

扇子を使って、タバコをたしなむ所作を再現

写真 落合直哉

続く「動」のコーナーでは、歌舞伎の代表的な「所作」の実演が行われました。

市川九團次さんの回では、武士、町人、飛脚、身分の高い人の世話をする奴(やっこ)、町娘などを例に、歌舞伎の代表的な所作を解説。立ち居振る舞いや歩き方の細かな違いを実演すると「通行人などの端役には台本上に演技の指示がないことも多く、演じる俳優がその役の立場や心情を想像して演技プランを考えています。メインの役を邪魔しない程度に、自らの所作に工夫を凝らしているので、観劇の際は脇役の動きにもぜひ注目してほしい」と見どころを語っていただきました。

「所作」の実演の様子

お姫様の所作は袖の中に手をしまうのがポイント

写真 落合直哉

女性の役を演じることが多い中村壱太郎さんの回では「女方の動きの基礎は日本舞踊から来ている。脇をしめ、腕を身体にくっつけるのが基本」と、立ち姿を女性らしく見せるコツを解説。そのうえで、お姫様、町娘、芸者それぞれの動きの違いを実演していただきました。

「歌舞伎では、家柄が高貴な女性ほど動作がゆっくりしている。男勝りな役柄はツっと歩いているので、その対比にも目を向けると、より歌舞伎を楽しくご覧いただけると思います」

プログラムの後半では歌舞伎ならではの演出法「見得」の実演も。九團次さんの回では「歌舞伎はお客様参加型の演劇。見得を切った後に大向こう(観客からの掛け声)があると、会場に一体感が生まれます」と観劇の楽しみ方のレクチャーがありました。

九團次さんが見得を切ると、来場者から「高島屋!」と声が上がり、イベントの盛り上がりはピークに。扇子を使って女性の様々なしぐさを再現した壱太郎さんにも、来場者から「成駒家!」の掛け声とともに大きな拍手が送られました。

語り尽くせない“歌舞伎”の魅力。ぜひ劇場で体感を

今井豊茂さん、中村壱太郎さん

歌舞伎の未来に思いをはせる今井さんと壱太郎さん

写真 落合直哉

舞台の中心で見得を切る“立役”から、名もない通行人まで、さまざまな役の見どころが語られた<知+動>の回。最後に設けられた質疑応答では、学生の来場者から「これだけは残したい歌舞伎の“根幹”と言える要素は何か」という鋭い質問もありました。

今井さんは「同じ演目でも、数十年ぶりに見ると『こんな場面あったっけ?』と不思議な感覚になることがあります。それは脚本自体がアレンジされた場合もありますし、演じる俳優や身にまとう衣裳で印象が変わったとも考えられます。ある時点の歌舞伎を再現しようとしても同じものはできません。ただ、“型”を守りながらも、新しいものを作り続け、お客様を楽しませることこそが歌舞伎の真髄であり、魅力なのではないかと思います」と答えました。

壱太郎さんも今井さんの言葉にうなずきながら「歌舞伎にかかわる一人ひとりが自身の役割を果たすことで、伝統を未来につなげていきたい」と語り、1時間のプログラムは結びとなりました。

<市川九團次さんのメッセージ>

お客様との距離感はエンターテイメントにおいて大切なものだと感じていますが、今回のイベントでお客様とやり取りできたことは、非常に貴重な機会になりました。

長く歴史ある歌舞伎だからこそ、演者として、これまで先輩たちが演じてきた役をしっかり受け継ぐという気持ちをもって日々の稽古を積み重ねていますが、どれだけ準備をしていても舞台では予期せぬことが起きるもの。同じ舞台を2回、3回とご覧になるお客様もいますが、その一回一回に変化があります。こうした変化を感じていただけるのも歌舞伎の楽しみであり、魅力かもしれません。

<中村壱太郎さんのメッセージ>

今回は「着流し(稽古着)」でお客様に演技をお見せしましたが、衣裳を着けている時とはまた違う感覚で、自分がどういう表現をしているのかを素直に考える有意義な時間になりました。

歌舞伎の基盤は脈々と続く歴史の中にありますが、表現していることが今の人に伝わらなかったら意味がありません。現代の人だったらどう考えるだろうという視点を忘れず、受け継いだ文化を継承していけたらと考えています。(関西の)上方歌舞伎を守ることも自分の使命。文化はいろいろな場所から生まれるものだと思うので、多様性も大切にしたいです。

「時と日本文化プロジェクト」では日本の伝統文化、ものづくり、食文化、アート、芸能など、様々な分野で活躍中の方々にご協力いただき、銀座四丁目にあるセイコーハウス銀座を舞台に、日本文化の魅力を体感いただくイベントや展示会を不定期で開催します。次回の開催にもぜひご期待ください。

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