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淺野義弘 画像

木々の合間からこんにちは、ライターの淺野です。とても涼しく気持ちの良い場所ですが、避暑地でバカンスを過ごしているわけではなく……

那須塩原事業所 画像
掲示されているスローガン 画像

この辺り一帯は、「セイコーNPC」の那須塩原事業所なんです。那須塩原駅から車で20分ほど。緑で囲まれた自然豊かな場所です。

「精度で新たな瞬(とき)を」というスローガンを掲げ、半導体製品の開発、製造、販売を行うセイコーNPC。家電やロボット、時計に搭載する電子部品など、さまざまな製品を扱っています。

一円玉と水晶発振器 画像

今回の取材のテーマは、一円玉よりも小さな「水晶発振器」(写真右)について。

スマートフォンやタブレットなどの電子機器にほぼ必ず使われている、私たちの生活に欠かせない部品なんです。セイコーNPCは、この小さな部品の中にある、さらに小さな「水晶発振器用IC」の世界シェアNo.1を誇っているのだとか。

小林さん、澤木さん 画像

その役割から電子機器の「指揮者」に例えられる水晶発振器と、それを制御するICについて教えてくれたのは、セイコーNPC 設計1課の小林豪さん(写真左)と澤木勇一さん(写真右)。私たちの暮らしに欠かせない通信インフラの発展にも、水晶発振器の進化が深く関わっていました。

小さな小さな、水晶発振器用IC

水晶発振器用IC説明の様子 画像

今日はよろしくお願いします。セイコーNPCが開発している「水晶発振器用IC」とは、どのようなものなのでしょうか?

澤木:ここに出荷時の状態に近い製品があるので、まずは一緒に見てみましょうか。シリコンで作られたウエハという薄い円板の上に、私たちが設計したICが並んでいます。

ウエハ 画像

ウエハは直径およそ30cmほどのサイズ

拡大したウエハ 画像

近くでよく見ると、びっしりと小さなICが!

すごい密度ですね! 田んぼを空から眺めた風景のようにも見えます。この一枚のウエハには、どれくらいのICが集まっているのでしょうか?

澤木:種類にもよりますが、この製品では大体4〜5万個くらいですね。このまま、もしくは小分けにした状態で、お客様である水晶発振器メーカーさんに納品しています。

IC 画像

ICを一つだけ取り出して撮影した写真。一円玉と比較しても、その小ささが際立つ

小林:息を吹きかければ飛んでしまうほど小さな部品ですが、このICが他の部品と組み合わさることで水晶発振器となり、さまざまな電子機器で重要な役割を果たしていくんです。

水晶発振器は電子機器の時を刻む「指揮者」

改めて、セイコーNPCのICが使われている水晶発振器とは、どのような部品なのでしょうか?

小林:「水晶発振器」は、水晶振動子をICと組み合わせてパッケージングしたものの名称です。「電気をかけることで 一定の周期で振動する」という水晶の性質を利用して、電子機器を構成する膨大な部品に対し、正確な時間とスピードで連続したタイミング信号を提供しているんです。

水晶発振器の図解

水晶発振器の図解。水晶振動子とICが回路でつながっている

澤木:電子機器を構成する部品は何百~何万という数にのぼりますが、それらは決して自由気ままに動いているわけではありません。それぞれが足並みを揃えて一定の規律に従って動作するのですが、そこに必要なのが、回路の同期を取るための周期的な信号、”クロック”です。水晶発振器の役割は、このクロックを生成し、周辺の電子部品に対して、動作の基準となる信号を送ること。他の部品をオーケストラの楽器に例えるなら、水晶発振器は指揮者のような存在と言われています。

たくさんの電子部品を調和させるために、水晶発振器という指揮者がテンポを刻むようなイメージですね。活躍する場面も多そうです。

インタビューの様子 画像

小林:私たちの身の周りにある、ほとんど全ての電子機器に水晶発振器が入っているはずです。

たとえばスマートフォンであれば、音声やデータの送受信、画面表示など複数の機能が連携して動いていますよね。もし水晶発振器がなければ、これらが動作するテンポが合わず、まともに使うことができなくなります。時間の基準も無くなるので、時刻表示もうまくいかなくなるでしょうね。

澤木:実は、セイコーNPCは1975年に創業した当初、時計用のICを開発していたんです。特定の周波数(1秒間に振動する回数)を持つ水晶振動子をベースにして、秒針用のモーターに信号を送るような仕組みを作っていたんですよ。

那須塩原事業所 画像

まさに「時を刻む」役割を水晶発振器が果たしていたのですね。時計を作り続けてきたセイコーグループだからこそ、電子機器を動かす水晶発振器にもこだわりがあるのでしょうか。

澤木:セイコーNPC製品の最大の特徴は、動作の精度です。

水晶は自然の素材なので、どうしても周囲の温度や環境によって性能に差が出たり、通信にノイズが乗ってしまったりするのですが、これらをできるだけ安定させることがICの重要な役割です。回路の設計や実装の工夫によって精度を高めていくことに、私たちの技術やノウハウが詰め込まれています。

通信規格と共に進化する水晶発振器

インタビューの様子 画像

水晶発振器が使われているPCやスマートフォンも、日々進化していますよね。マシン自体の性能も上がっていますが、最近では5G対応スマホが登場したりビデオ通話が当たり前になったりと、通信のボリュームや速度も大きく変わった印象があります。

澤木:そうした変化に応じて、水晶発振器やICにも高い性能が求められるようになりました。1G、2G……というのはモバイル通信のための方式で、最初の1Gは自動車内の電話や肩掛け式の大きなショルダーフォンに使われており、主にアナログ方式の音声だけをやりとりしていました。

そこからメールやインターネットに対応したデジタル方式の2G、それをさらに高速化した次世代通信の世界基準の3Gと進化していくにつれ、扱うデータの量も大きくなっていきました。やれることが増えた分、短い時間で複雑な処理が必要になるため、基準となる水晶発振器の信号も高速化させる必要があったんです。

さまざまなデータや部品を複合的に、滑らかに動かすために、水晶発振器には高い周波数が求められたのですね。

インタビューの様子 画像

PCやスマートフォンから動画コンテンツを見たり、リモートワークや遠隔授業で活用することも当たり前になりました。電話やメールだけでやりとりしていた時代に比べると、生活もかなり変化していますよね。

澤木:おっしゃる通りです。特に、ここ数年間はコロナの影響もあり、PCやスマートフォンで使う水晶発振器用ICの需要がとても増えました。家電など多くの機械もインターネットにつながることが当たり前になっていますから、今後も需要は増えていくでしょう。

高性能なスマートフォンや通信端末が前提となる4Gや5Gは、今でも高速・大容量の通信に使われていますが、その先のポスト5Gでは、超低遅延(※通信ネットワークにおけるタイムラグを大幅に抑えリアルタイムに近づけること)や多数同時接続といった機能が強化され、スマート工場や自動運転への活用も見込まれています。社会の発展に欠かせない、未来の通信インフラを支えるため、セイコーNPCとしても国の機関と連携しながら、さらに高性能な製品の研究開発に取り組んでいる最中です。

日常でも非常時でも、安定して通信ができる環境は生活に欠かせないものですよね。当たり前に使っている電子機器の中で、水晶発振器やICが重要な役割を担っていることがわかりました。

当たり前の未来に向けて、当たり前の努力をする

セイコーNPCの那須塩原事業所では設計業務のほか、動作実験や品質検査なども行なっています。開発の様子を見せてもらいながら、最後にいくつか気になったことを質問してみました。

開発を見学している様子 画像

セイコーNPCのWebサイトを拝見すると、栃木県産業振興センターが主催する「とちぎSDGs推進企業登録制度」にも登録されていますよね。SDGsの達成に向けて、たとえばどのような取り組みをおこなっているのでしょうか?

CO2や産業廃棄物の削減活動などを継続的に実施しています。水晶発振器に関して言えば、さまざまな端末に搭載するための小型化が進んでいるため、ICも含めて一個の製品あたりに使われる資材の量は減っています。省電力化も進めていますから、そういった意味での環境配慮は「当たり前のこと」として取り組み続けています。

開発を見学している様子 画像

この机ではさまざまな水晶振動子と回路を組み合わせて性能を検証していた。「どうしても発生するノイズは回路内で抑制する」といった工夫が詰め込まれているとのこと

周波数を上げる以外に、水晶発振器の開発にはどのような要件が求められるのでしょうか?

小林:ICの内・外部のノイズの影響を減らすことはもちろん、低温や高温の環境下でも動くことが求められるようになりました。暑さや寒さの厳しい地域で使うスマートフォンや、屋外の通信基地局、あるいは機械部品の密集する自動車の中など、水晶発振器は使われる場所によってかなり厳しい環境に晒されます。下はマイナス40度から、上は125度くらいまで、そうした環境でも安定した信号を出せるように、ICによって水晶振動子のバラつきを調整することが求められています。

今の時代、人間が暮らす場所には必ずと言えるほど機械がありますよね。水晶発振器やICの性能向上に合わせて、人が活躍する場所も増えていく。そんなイメージが湧いてきました。本日は色々とお話を伺わせていただき、ありがとうございました!

スローガン「精度で新たな瞬を」 画像

時には過酷な環境の中でも安定して動き、機械を調和させる水晶発振器やIC。私たちのコミュニケーションを豊かにしたり、快適な生活を送ったりするために欠かせないものだとわかりました。1秒を刻んでいた時計から、途方もないほど高速な瞬(とき)を刻む電子部品へ。セイコーNPCの技術は、これまでもこれからも、生活のリズムを刻み続けていきます。

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