どんな素材で、どのように作られたのかなど、商品の背景を確認した上で買いものをする人が増えています。メーカーのこだわりや思いを知り、納得して、気持ちのいいお買い物を実現するために、「つくる側」の取り組みを聞きにいきました。

確かな品質で長年愛され続ける銀座・和光では、近年、サステナビリティを意識した素材を取り入れ、新しいシリーズを展開中です。こだわりのものづくりについて聞かせてくれたのは、同社でファッションアイテムを担当する、佐藤朱夏さんと程塚美友さんです。

マテリアリティは「長く使ってもらえる品質」

和光が取り組んでいる、サステナブルなものづくりについて教えてください。

佐藤さん　和光はこれまでも良質な素材と高い技術力で、長い間お使いいただける商品づくりを続けてきました。その上でさらに新しい試みとして、2022年に、社会課題や環境に配慮したシリーズを立ち上げました。バッグの「MANACO（マナコ）」シリーズから派生した「MANACO FRIENDS（マナコ フレンズ）」と、アパレルライン「NEW CLOSET」における「カセット服」です。

これらのシリーズを通して、和光が未来に向けた視点をもっていることや、これまでにない取り組みを始めたことを、広くお伝えしていきたいと思っています。

和光でレディスファッションの仕入れを担当されている佐藤さん。「素材からの製品づくりは大変なこともありますが、お客さまに受け入れていただけた時には、大きなやりがいを感じて、楽しい仕事です」

佐藤さん　和光のものづくりのうえで、上質なつくりであることは欠かせないこだわりです。アパレル業界自体、環境に関する課題が多いことも事実ですので、お手入れをしながら長い間お使いいただけることや、選べるのであれば土に還る素材を使うことなども重要だと考えます。素材の仕入れも、デザイナーさんや職人さんとの繋がりを通して、顔の見えるところから仕入れたいと考えています。

SDGsや社会課題に意識を向けているお客さまも多いですし、逆にこうした製品をきっかけに、初めて和光に来てくださるお客さまもいらっしゃいますので、そうした期待にしっかりお応えしていきたいです。

“もったいない”に応えた、ハイクオリティなレザー小物

MANACO FRIENDSは、どんなシリーズですか。

程塚さん　2022年にMANACOというハンドバッグのシリーズが始まり、そこから誕生したのがMANACO FRIENDSです。

MANACOのバッグは、アクティブに生きる方々に向けたデイリーユースのバッグで、和光の名前から「和み」や「光のような明るさ」をブランドコンセプトにしています。日本語の「眼（まなこ）」が語源になっていることから、丸をモチーフにしたデザインが特徴です。

同じくレディスファッションを担当されている程塚さん。「就職や転職といった、人生の節目に和光のバッグを選んでくださるお客さまもいて、すごく嬉しいです」

程塚さん　MANACOの第一弾となったトートバッグは、底が円形で、大きな曲線のモチーフが美しいデザインです。しかし一枚皮から作り出すため、レザーの端材が出てしまう。そこで、通常なら廃棄されてしまう端材や、製品に使うのは難しいシワなど革の状態が良くない部分を活かして、MANACOらしい上質なレザー小物として生まれたのがMANACO FRIENDSです。

身近で、大切で、対等な存在でもあるFRIENDS（友達）には、「自然環境のことも身近にしてもらいたい」ことや、MANACOのバッグとも「同等の立場」という思いが込められている。

程塚さん　アップサイクルであるからこそ、和光らしいクオリティにこだわりました。ステッチのクオリティも落とさないようにしていますし、金具などもバッグに使われているものと同様にオリジナルの金具で、もし何かあっても修理が可能です。

現在はポーチが2種類と、半円型のミニポーチ、手首やバッグなどに付けていただけるバングルや、元気が出るようなデザインのキーホルダーが2種類。どれもポップでかわいらしく、はつらつとした女性が使いやすい明るさ、気持ちを和ませる愛らしさを込めました。機能性も考慮していて、ポーチにも内ポケットがあったり、半円型のミニポーチはコインケースやアクセサリー入れとしても使えるようになっています。

※アップサイクル：本来であれば廃棄されてしまうものに手を加え、新たな付加価値の持った製品に生まれ変わらせること。

500円玉が収まるサイズのミニポーチは、バッグの取っ手にチャームのようにつけることもできる。「サロンなどで指輪やピアスを一時的に外す時にも便利です」と程塚さん。

チャレンジは、環境意識とこだわりの両立

程塚さん　SDGsや環境課題を考慮した際、素材についてもいろいろ考えました。ハンドバッグやレザー商品という枠組みの中で、和光の思いを込めるにはどんな方法がふさわしいのか。一定以上の安心感があり、長くお使いいただけるのはどんな素材か。シワのある革の状態が良くない部分や端材を活用することは和光にとって初めての試みですが、きちんと製造されたレザーを無駄なく大切にする意識と、長くお使いいただける製品づくりに努めることが、今のわたしたちにできることだと思います。

お客さまにもアップサイクル素材のご説明をすると、コンセプトに賛同してくださるだけでなく、単純に製品自体を気に入って買っていただけることが多いです。元々、MANACOのバッグと同格のシリーズを目指していたので、そうやってMANACO FRIENDSも受け入れてもらえると大変嬉しく思います。

今後はMANACOのバッグコレクションの、違う種類のレザーでもMANACO FRIENDSシリーズが展開予定。「将来的には、リサイクル生地や環境配慮された素材をもっと活用したり、産業や地域の活性化にもつながる取組をしたいと考えています」

三拍子揃った、信頼の素材と出会って

続いて、アパレルライン「NEW CLOSET」の取り組みについて教えてください。

佐藤さん　自分らしく活動的に生きる女性たちに向けたアパレルとして「NEW CLOSET」を2022年に立ち上げました。シンプルで着回しがきくデザインは、他のお洋服とも組み合わせやすいので、クローゼットの中でも手に取る頻度が上がる服になるように、と考えています。ジャケットやパンツなど定番アイテムが多いですが、トレンドも程よく取り入れているため、まるでクローゼットの中が一新したような気持ちになることを、コンセプトにしました。

その中でMANACO FRIENDSと同じく、サステナビリティの視点を取り入れた製品を考えて、REDA（レダ）というイタリアのメーカーの生地を使ったカセット服があります。生地自体が環境的にも社会的にも配慮されていて、REDAに出合えたことは、わたしたちにとっても非常に大きな意味のあることでした。

種類も豊富なカセット服。2023年春夏では、ジャケット、スリーブレスなジレ（写真）、パンツ、ワンピース、プルオーバー、スカートの全9型。濃紺、青、ミディアムグレーの3色展開。

佐藤さん　REDAとの出合いは、以前からお付き合いのあるメーカーさんにご紹介いただいたことでした。どんなにエコに特化したメーカーであっても、生地のクオリティとして美しくなければいけないので、和光のこだわりをよく知るメーカーさんからご紹介いただいたことは心強かったです。

そして実際に手にした生地は、本当に美しいものでした。環境に配慮してつくられている上に、REDAという会社の姿勢も素晴らしい。三拍子揃った素材と出会えた、と思いました。

160年近い歴史のあるREDAは、社会課題に配慮したビジネスを透明性高く行っている企業として、厳しい基準をクリアし、Bコープ認証を取得しています。ウールの原毛も厳しく管理され、自社で保有している牧場では羊たちを放し飼いにして、羊毛を狩るときも羊を痛めつけたりストレスを与えないよう徹底されています。

難関をクリアした、熟練の職人技

佐藤さん　REDAはもともと紳士のスーツ生地を得意としていることもあって、今回わたしたちが選んだ生地も、光沢が美しく、張り感のある生地です。そのため、ハンサムな雰囲気で、アクティブな女性たちがオンでもオフでも着たくなる服を作りたいと考えました。軽くて型崩れもしにくい、とても気持ちよく着ていただける服ができたと思います。

佐藤さん　今回の製品づくりで難しかったことは、REDAの生地が高品質であるが故のことでした。この光沢を実現させているのは、とても細い糸と、細かく詰まった生地の目で、そこに縫製の針が入りにくかったり、最後のプレスがしづらかったり。それでも職人さんが「がんばってみましょう」と言って、実現してくれました。これまでの長いお付き合いや信頼関係のおかげで、和光の品質へのこだわりをご理解いただけていることがありがたかったです。

ウールと聞くと冬ものをイメージする方もいるかもしれないのですが、実は湿度を吸収して放出する吸放湿性は綿よりも優れている素材です。汗をかいてもサラッとしていますし、においも溜め込みにくいので、高温多湿の日本の夏にも適しています。

本シリーズではREDAの生地に合わせて、首元のネームタグもシルク製に。「普段あまり意識しないような細部も、どんな素材で出来ているかを考えるきっかけになった」と佐藤さん。

佐藤さん　REDAの生地を使用したカセット服は、押し洗いや軽いアイロンがけなど、ご自宅でお手入れ可能なので、それも長く使っていただける大きなポイントになっていると思います。ドライクリーニングは石油をたくさん必要とするため、欧州など環境先進国ではできるだけ避ける仕様が支持されるんです。

今後の展開としては、REDAの生地で初めて秋冬ものをお出しできることになりました。フランネルの生地を使った、すごく出来の良いものが作れたので、早く皆さまにお届けしたい気持ちでいます。

サステナビリティとアパレルの共存は課題が多いですが、生地ではなくてもボタンなどに天然素材を使うとか、できるだけ合成繊維ではない生地にするなど、和光ならではの取り組みを続けていきたいです。

2023年7月13日（木）より、SEIKO HOUSE GINZA中央ショーウインドウにて銀座・和光がお届けするサステナビリティ製品を展示いたします。本記事で掲載している「MANACO FRIENDS（マナコ フレンズ）」などをご紹介しております。ぜひSEIKO HOUSE GINZAにてお楽しみください。