家政婦
タサン志麻時問時答

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家政婦とは、“家族の団らん”をつくる仕事。

“家政婦”として行う、普段の仕事内容を教えてください。

家政婦の仕事としては3時間で1週間分の作り置きを依頼されることが多いです。それはその相手の方がどういう風に、どういうものを望まれているかによって変わります。すごく品数が多い方が良いって言われたらいっぱい作りますし、そうじゃなくてちょっと人を呼ぶから、おもてなしの料理を作ってほしいって言われたらやっぱりそういう内容のものを作りますし、何回も伺っているお宅だったらだいたいそのご家庭のイメージとかがつくんですけど、初めてのお家に行くときは特に本当に色々なことに注意して、冷蔵庫に保育園の行事のカレンダーとか小学校のとか貼ってあったらそれを見て、「あ、芋掘りしてきたんだ」って、それで冷蔵庫に芋が入っていたら、じゃあそれを子どもたちがおいしく食べられるような料理を作ってあげようって思うし。冷蔵庫に減塩醤油とか減塩味噌とかばかりを揃えている方だったら、「あ、塩分に気をつけていらっしゃるんだな」とか。キッチンの様子を見て、その人の食生活を自分なりに想像してなるべくその人たちの求める味に近づけていきたいなっていう風に思います。

今までどのくらいのご家庭を訪問されてきたのでしょうか?

どのくらいでしょうね……2,000 とかはいっていると思いますね。まあリピートされる方もいらっしゃいますし。私の場合は、もちろん「おいしかったです」って言われるのは嬉しいんですけど、やっぱり「ゆっくり家族とご飯が食べられました」とか、そういう時間を作ってあげられたということの方が嬉しいので。普段やっぱり、私が行くお客様はすごく忙しくて。本当に家族の時間が、全然、もうズレてしまっている。「旦那さんが遅くに帰ってくるから、(夜ご飯は)いりません」とか、「子どもは塾があるから帰ってきてから一人で食べます」とか、そうせざるを得ないという家庭がすごく多くて。そういう家族に少しでも自分が料理を作ることで、「みんなが一緒にテーブルに着いて、会話をしながらご飯を楽しめるっていう時間を作れた」ってそういう風な言葉を聞いたときがやっぱり一番嬉しいなって思いますね。

お母さんも、ゆっくり食事をしてほしい。

タサン志麻

既出のインタビュー記事にて、かつてはフランスで料理修行をされていたと拝見しました。当時の経験の中で、現在のご活動にも繋がるエピソードがあれば教えてください。

私自身が田舎の7人家族だったんですね。私の母がすごく料理が好きで、ずっとキッチンに立っていたんですよ。帰ってきてすぐキッチンに立って作り始めて「みんなご飯よ」って言って集まってきて、一番最後に席へ座るのが母だったんですね。わーってかきこむように食べて、さっと立ち上がって片付けを始めるっていう母の姿が当たり前だって思っていたんですけど。フランスに行ったときにお母さんも一緒に座ってワインを飲みながら、話しながら料理が出来るのを待っているんですよ。もっともっと、意識を作るほうから食べるほうにみんなが移っていったらいいなって思うし、簡単でおいしい料理っていうのもすごくいっぱいあるんですよ。特にフレンチなんか、フレンチのレストランのイメージがあるので難しい料理と思われるんですけど、家庭で食べている料理って焼いて煮込むとか、塩を振ってオーブン突っ込むとか、すごく楽なんですよね。そういうのをうまく自分の生活と組み合わせて、忙しいときはできないけれど時間があるときにちょっと手の込んだものを作るとか。もっと自由に自分たちの生活に合わせて料理を作って楽しんでほしいなって思います。

家政婦の仕事を始めたきっかけを教えてください。

タサン志麻

元々、料理人を私は本当に苦しくて辞めたんですよ。逃げるように辞めたんですよ。もう 30 代を超えたときに、周りはどんどん独立していくんですよね。自分もこの先料理人としてどうしたいのかっていうのにすごく悩んで。フランス料理がもう大好きで大好きで、当時3時間ぐらいしかずっと寝てなくって。休みの日も本当に朝から晩まで、朝映画見に行って、午後からフランス語を習いに行って、美術館行ってフランスの画家の絵を見て、夜食べ歩きをしてって。それで夜遅くまで勉強して本を読んだりして寝るって、そのぐらいすごいモチベーションで料理を勉強してきたつもりだったんですけど。でも、答えが見つからないんですよ。やっぱり周りは「何言ってるの」って。相談したこともあるけど自分と同じ気持ちの人がいないから、もう苦しくてしょうがなくて。すごい一生懸命やっていたんですけど、ある日プツッって糸が切れたみたいに、置き手紙ひとつで 10 年働いた店を置き手紙ひとつで辞めたんですよ。何がしたいんだろうって思って、とりあえずフランスにもう行きたかったんですよね。フランスのレストランで働くんじゃなくて、本当に旅行でもいいから行って、カフェで隣に座ったおばさんに「今日の晩御飯は何ですか?」って聞いてまわって、家庭料理を教えてもらおうって思って。でも当時 34,5 だったんですけど。私もう、お給料をすべて勉強することに費やしていて、貯金が一切無かったんですよ。だからお金も無いし、生活もしなきゃいけないし、とにかく仕事しなきゃいけないって思って。渡仏の資金を貯めるのに。バイトをしようと思ったときに、どうせバイトするならフランス人がいっぱいいる場所でと思ったので、そういう飲食店を探して働き始めたんですよね。そこで彼と出会って。結婚するとは、自分では当時はもうずっと料理をやっていくと思っていたから、結婚願望なんて無くて。全然こんな感じでお化粧もしないし、女っ気もないから、そういう感じも全然イメージもしてなかったんですけど。彼に出会って、結婚することになって。高齢だったので、子どものこととか考えると今渡仏するタイミングじゃないなって思って。そしたらフランス人のベビーシッターをしようと思って。私フランス人の友達はいっぱいいたので、そういうバイトをしていた子がいっぱいいたんですよ。それで、料理も作れる、フランス人の家庭にも入れる、と思って探し始めたときに、家事代行の仕事を見つけたんですよ。

家政婦の仕事にやり甲斐を感じるのは、どのようなときですか?

タサン志麻

家政婦として初めてフレンチを作り置きの中に入れて、ルールとか、マナーとか、食べ方とか、フレンチの名前とか、そんなの関係なく自然に子どもたちとみんながフランス料理を食べて「おいしいね」って。「これまた作ってもらおう」とか。そういうのを見たときに、(料理人を)辞めて「良かったな」と思ったんですよ。これが私が求めていた料理だったんだなって思ったので。そのときにようやく、家政婦になって良かったなって。それまでは1年くらいお掃除も並行してやっていたし、数をどんどんこなしてやっていく中で、自分の気持ちとようやく折り合いがついた。どっちかっていうと、レストランで働いていたというよりも自分の料理感に近かったんですよね。私は計画して家政婦になったわけじゃないけど、ずっと心に思い描いていた自分の料理に対する想いみたいなものは何一つ変わっていないんですよ。18 のときにフランス料理に出会って、19 のときに留学して、そこからずっと追い求めていた料理が何も変わっていないんですよ。

料理人を辞めたことに後悔はありますか?

周りからしたら突然店を辞めたりとか、フラフラしているように見えて「いきなり家政婦なんか始めちゃってどうしちゃったの」みたいな感じだと思うんです。うちの両親は、私はそこまで話さないから、ハラハラしていたと思うんですよ。でも、ようやくこれが私の仕事だって思える仕事に出会えて。でもそれは自分がこうしたいとか、こうありたいっていう想いを諦めなかったからだと思っているんですね。それでも自分の気持ちに正直に行動して良かったなって。だからこの家政婦っていう仕事に巡り合えたし、だからこそ家政婦でありたいんですよね、今でも。今はやっていることだけを見たら、料理本作って、テレビにも出て。「料理家」って書かれていたりするんですけど、「家政婦」って書いてくださいっていつも言うんですけど。

1日の中で、最も好きな時間はいつですか?

今は、家族といる時間ですかね。私結構すごく忙しく働いてるんですけど、もしポッて時間が空いたら家族と一緒にいたいなって思うんですよ。

タサン志麻
(撮影:Aya Kawachi)
※本内容は音声でお聴きいただくことも可能です。文章では話の内容をよりわかりやすくするために言葉の調整や補足をした箇所があります。音声と文章、どちらもお楽しみいただければと思います。

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プロフィール

タサン志麻
タサン志麻 家政婦

高校卒業後、大阪あべの・辻調理専門学校に進学。フランス料理に出会い、その魅力にのめり込む。同グループ・フランス校へ留学し、卒業後は老舗フレンチレストランやビストロで約15年間修行を積んだ。「フランスの家庭料理を伝えたい」との思いから、2015年よりフリーランスの家政婦として独立。3時間で15品を作る料理の腕が評判を呼び「予約の取れない家政婦」として注目を集めるように。著書に『志麻さんのベストおかず』(別冊ESSE)など多数。

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