心理学者
一川誠時問時答

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時間は自由に伸び縮みする。

「時間の感覚とは人それぞれである」と一川先生は述べられていますが、時計の時間と人が感じる時間について教えてください。

例えば、1日が 24 時間とか、1時間が 60 分とかそういうのは人によって全然変わるわけでは無いですし、地球上であれば時間の進み方はほぼ同じだというふうに考えていいと思います。なので、物理的に与えられた時間というのは皆それぞれ同じというのは、ある意味真実だと思うのですが、感じられる時間、体験される時間というのは、実はいろんな要因で伸びたり縮んだりします。あるいは、順序がひっくり返ったりというようなことも起こります。それがどういった要因で色々変化するかというのは、まだ完全に解明されたわけではないですけれども、どういう風に時間が長くなったり短くなったりということが起こるかっていうことをちゃんと理解すると、おそらく時間をゆったり過ごすとか、あるいは心地よく過ごすっていうことにもつながるでしょうし、例えばつまらない時間、辛い時間をどう短くするかということも逆に可能になったりするんだろうなぁ、というふうに思います。そういった点では、時間というのは与えられた時間としては物理的にはみなさん同じであるけれど、どう過ごすかっていうことがとても重要になってくる。特に人間にとってはそういう、どう過ごすかということが重要なテーマというか対象だという風に思います。

一川誠

どのような要因によって、時間の長さの感じ方が決まるのでしょうか?

まだ、完全に感じられる時間の長さに影響する要因が全部見つかっているわけでは多分ないですけれども、これまでわかっているところでいうと、いくつかとても大きな影響を与える要因というのがあります。1つは、身体の代謝、新陳代謝の影響と。あと、どれだけその間に体験しているか。特別な事柄を体験しているかということ。あと、時間の経過にどれだけ注意が向くかということがとても重要だとわかってきています。

実際に起きていることが、時間の感覚に影響することもあるのでしょうか?

時間の感覚だけじゃなくて、視覚も聴覚も他の感覚の影響を受けるんですね。専門用語で感覚間相互作用というんですけれど。視覚と聴覚の間の相互作用もあるのと同じように、時間の感覚も外から影響を受けるということで。広い空間の中の方が時間を長く感じやすいですし、明るい空間とか、やかましい空間とか、何か量が多いっていう情報があるとだいたいその時間が長く感じやすくなります。

記憶に残る時間ほど、満足度が高い。

一川先生は、昨年(2020 年)「時間の長さは体験した出来事の数ではなく、認知的負荷で決まる」ということを発表されました。この研究内容について教えてください。

そうですね。体験されるイベントの数が多いほど時間を長く感じると先ほど言いましたけれど、それは多分真実なんですが、ただ単純に体験しているだけじゃなくて、どれだけその事柄にコミットメントしているか、どれだけ積極的にその事柄について認知しているかという方が大事だということが実験で分かりました。だから、体験しているだけじゃなくて、どれだけその事柄に集中しているかどうかということが重要だ、ということで、ぼーっとしていたらやはりだめみたいですね。

一川誠

満足度が高い時間というのは、一体どのような時間でしょうか?

満足度ということになると、体験しているその時よりは、むしろ振り返った時にそのことを感じるのが多いようなのですけれども、振り返った時に何も特別な事柄がないと、虚しく過ぎた時間というふうに思い出されやすいということがあるようです。ああいうことをした、こういうこともした、ああいうところに行った、こういうものを見た、こういうものを聞いた、と色々なことを思い出せる時間の方が、そう過ごした期間の方が、ちゃんと生きた時間というふうに思い出されやすくて、満足度が高いようなんですね。なので、後から振り返った時に特別なことをした、あるいは良い事柄だけじゃなくてもいいのですけれど、多くの事柄を思い出せる時間の方が満足度は高いようですね。何も思い出すことがない、特に嫌なこともなかったけれど良いこともない、という風な思い出され方をするような期間というのは、ただ虚しくすぎた、何もなかった時間というふうに認識されやすいので、満足度はどうしても高くないということが起こるようです。嫌なことであっても思い出されると、自分はこういうことで過ごしてきたんだということが思い出されると、そのことで自分をポジティブに評価できるようなので、心理学的にいうと、後で振り返った時に記憶に残っている、特別なイベントがあった期間というのがやはり満足度は高めるという意味ではとても重要ですね。

時間と仲良くなれるかどうか。

日々、時間を意識して生活することが大切なのでしょうか?

そうですね。さっき代謝の話をしましたけれど、代謝って1日の中でも変動するんですね。それが意味することは、朝の時間と、昼の時間、夜の時間で、主観的には全然同じ1時間でも、違う長さに感じるんですね。時計だと同じ1時間ですが、朝の時間というのはあっという間に過ぎますし。夕方の時間は、割と長いです。割と代謝が激しいのでわりとゆったり過ごせるんですけれど。そういうのって時計で刻むと同じ1時間となっていても主観には全然違うので、その体験される時間あるいは身体の時間、心の時間に合わせたような時間の使い方をしないと、24 時間どこでも同じ1時間というふうに考えて行動しているとたぶんどこかで無理が来ます。

一川誠

時間とうまく付き合う方法はありますか?

人それぞれでやはり時間の過ごし方に関しては良いペースというのがあって。それは人それぞれなので、完全に公共の時間のペースに合わせられる人はまずいないと思うんです。その中でどれだけ公共の時間に合わせていけるか、あるいは個人の時間の特性を反映したような公共の時間との付き合い方があるか、そこのせめぎ合いというか、試行錯誤を私たちはずっとしていると思うんですね。その中で「この時間の過ごし方であれば心地よく過ごせるな」という状態は人それぞれでおそらくあるんだと思います。それは人それぞれなので、「みんなにとってこれがいいよ」というオールマイティーの方法はなかなかないと思うんですけれど、「こういう風にすると調整できるよ、カスタマイズできるよ」という方法は何かあるのかもしれません。そこら辺は公共の時間との付き合い方ということで、時間と仲良くなれるかどうかということに関しては、いろいろなアイデアが提案できたりするところかもしれませんね。

ご自身で実践されている、時間と仲良くするコツはありますか?

締め切りに合わせないということですね。早め早めに気がついた時にするということです。時間がある時に早めにやってしまう。そうすると、人間はそもそも締め切りに合わせて仕事をしやすいという傾向があるんですけれど、それに逆らってですね、やらなきゃいけないこと、特に自分に重要なことを早めに早めにやってしまうと、ゴールに近づくとその事柄が楽しく感じられるしモチベーションが上がってくるという特性が人間にはあるんですね。目標勾配と心理学の用語でいうんですけれど。それを利用すると、どうしても自分にとってこだわりがあるようなやり遂げたい事柄に関しては早めに済んでしまいますし、締め切りに合わせるよりは質が高い作業ができるので、それは心がけています。

一川先生がおっしゃられている「時間を道具としてうまく使いこなす」ことについて教えてください。

例えば、今、時計を使うことで分刻みの生活とか時間刻みの生活、あるいは人によっては秒刻みの生活ができるようになっていると思うんですけれど、そういう生活習慣は、せいぜいこの 50 年ぐらいに可能になったんですね。昔は、例えば 150 年も前だと大阪と東京でさえ使っていた時間は違っているので、それぞれの土地でそれぞれの時間で、みんな過ごしていたわけです。具体的には、日の出に合わせて生活していたわけですけれど。秒刻みの時間なんてとんでもない、という点では今の分刻みとか秒刻みとか時計を使って時間を細かく刻んでいくという生活習慣は、そういうことができるようになった文明の利器があって初めて可能になっている。ある意味人間が作り出したものなんですね、この時計の時間というのは。人間が作り出したものだとするとそれに合わせて行くんじゃなくて、それを道具として人間として作り出した側として使っていくための工夫を考えていくというのは、我々がやっていくことだと思います。合わせていかなきゃいけないものではないと思います。

時間に合わせすぎると心や身体に負荷がかかってしまうのでしょうか?

秒刻みの生活は、人間には多分無理だと思います。おそらく、今大体 10 秒ぐらいたったと思っても全然合わないですし、何かの作業をしながら正確に時間を判断するというのはまず無理なので。もうちょっと緩やかに時間と付き合っていくということをしないと、どこかで多分無理が来ると思います。

一川誠
(撮影:Ayumi Yamamoto)
※本内容は音声でお聴きいただくことも可能です。文章では話の内容をよりわかりやすくするために言葉の調整や補足をした箇所があります。音声と文章、どちらもお楽しみいただければと思います。

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プロフィール

一川誠
一川誠 心理学者

千葉大学教授。実験心理学を専門とし、人間の認知知覚過程や感性の特性について研究を行う。著書に『時計の時間、心の時間 退屈な時間はナゼ長くなるのか?』(教育評論社)、『すごい!「仕事の時間」術』(三笠書房)、『錯覚学 知覚の謎を解く』(集英社新書)など。直近の研究では、室内の温度やにおい、音などの室内環境のデータを用いて人間の心的状態を推定するシステムを開発。また、人間が感じる時間の長さには認知的要因が大きな役割を果たしていることを明らかにした。

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