セイコーグループは、日本ならではの文化が生み出してきた豊かさや価値を<時>という視点から再発見し、 “ジャパン・ラグジュアリー”の魅力を世界に発信するプロジェクト「THE GIFT OF TIME」 を2024年7月に始動。 2024年10月23日に、プロジェクトの一環として制作したショートフィルム「THE GIFT OF TIME ー時と生きるー」公開し、ワールドプレミアイベントを開催しました。
イベントでは、フィルムに出演した建築家の隈研吾さん、歌手でセイコーグループアンバサダーに就任したMISIAさん、ディレクターのPaula Chowlesさんとセイコーグループ株式会社 代表取締役会長 兼 グループCEO 兼 グループCCO 服部真二が登壇し、トークショーを実施。 フィルムの感想やプロジェクトへの想いなどお話を伺いました。 今回は、会場の様子をお届けします。
時間の緊張感を映像でどう表現するか。 対話を重ね、時間の本質を作品に昇華した。
本作品の制作に込めた想いや意図をお話しいただけますか?
Paulaさん: ここ2年間、私は時間という概念とその時間をどのように有効に使うかというテーマを、個人的にも仕事の中でもずっと考えてきました。人類は何世紀にもわたり、時間について考えてきたわけですから、私自身の考えは特に目新しいものでも、深いものでもありません。しかし、このプロジェクトが始まったとき、私は二つのことを達成したいと思いました。
それは、隈さんやMISIAさんのような偉大な思想家と言いますかクリエーターの方々から、出来る限り多くのことを学びたいということ。そして、時間というものが持つ緊張感を映画という様式でどのように伝えていくかということです。
その緊張感というのはどういうことかというと、時間が私たちを支配し、追いかけて来たり、消えていったりするという緊張感のことです。ただ一方でひと呼吸間をおいて、その瞬間と一つになるということも考えました。
日本の風景はまるで映画のように美しい。 歴史ある場所の空気や情緒を映像に刻んだ。
今回の作品では、日本を代表する様々なロケーションで撮影されていますが、その選定理由、そして実際に訪れた感想を聞かせてください。
Paulaさん: 日本という国は、撮影のロケ地として、世界の中でも最も魔法のように神秘的な場所の一つであると感じています。それはカメラのレンズをどこに向けても、他の国では見られない光景を捉えることができるからです。これはまさに魔法だと思っています。 日本の各所で美しい、特別な場所を撮影することができ大変光栄に思っています。例えば京都の無鄰菴では訪れた瞬間に禅の感覚を味わうことができました。MISIAさんとご一緒させていただいた奈良の東大寺では、あの大仏を前に非常に厳かな気持ちになれました。 このような特別な場所で撮影することができ本当に光栄でした。監督として、それぞれの場所が持つ独特の雰囲気を、フィルムの中にありのままの姿で納めることに努めました。日本にはこのような独特な雰囲気を持つ場所がとても多くあります。
東京にひっそり佇む瑞聖寺。 小さな寺ながら、そこに秘められた時間の魔法を感じた。
自身で庫裡(くり)を再建された、瑞聖寺を撮影地に選んだ理由をお聞かせください。
隈研吾さん: 瑞聖寺は決して大きなお寺ではないのですが、ポーラさんが魔法のようだと仰ったように、本当に不思議な場所ができたんです。 東京の中でこんな不思議なことが、小さな場所でできてしまうんだと自分でも驚いた場所で、とても思い出深いプロジェクトになりました。 そんな場所をきっと素晴らしい映像にしていただけるのではと思い、この場所を選びました。
1250年の歴史を持つ東大寺。 MISIAさんにとっても特別なこの場所で、“時”の重みを感じた。
東大寺を撮影地に選ばれた理由と撮影の感想を教えてください。
MISIAさん: 東大寺は世の安寧を祈って創建されて、1250年以上の“時”を刻んできた場所です。また、私にとっても、2020年に新型コロナウイルスの収束を祈って歌を奉納させていただいたというご縁のある場所でもあります。日本においてお寺という場所は、時計がなかった時代に人々に“時”を告げていた場所ですよね。 まさに“時”という漢字の中にも寺という言葉が入っているぐらいですから、今回はそういった場所でGIFT OF TIMEをテーマにお話をさせていただくという機会をいただきました。東大寺は何度訪れても本当に心を落ち着かせてくれる場所でもあります。私たちもこれから平和な未来を想い、祈り続けていかなければいけないとあらためて感じながらインタビューをしていただきました。
映像に響く、過去からのメッセージ。 建築の本質や時間の流れが美しく表現されていた。
出演者の皆さんにもフィルムをご覧いただきました。フィルムを見た感想をお聞かせください。
MISIAさん: さまざまな“時”が描かれていて、本当に素晴らしい映像だなと思いましたし、映像になると、遠い過去からのメッセージも同時に流れてくるような感覚にもなりました。 刹那という、一番短い時間の長さを表した言葉なのですが、あの瞬間にあの場所で、あの言葉を選んでくださったことで、メッセージを強く感じながらインタビューしていただけたのだと思いました。
隈研吾さん: ポーラさんの映像では、建物の細かい部分まですごくきれいに撮っていただきました。中でも一番感心したのは、屋根を支える垂木というものがありまして、その垂木の部材のリズムを僕らは一番大事にしているんです。垂木のリズムというのは“時”そのものだと思っていて、それを彼女はきれいにフレームワークして撮ってくださったんです。僕自身すごくびっくりしたのですが、彼女はあの建物の神髄をわかっていらっしゃるんだなと感じました。
服部CEO: ポーラさんは日本の文化をよくご存じということもあって、私の想いについても「それはもう少しこういうことかな」と察しながらインタビューいただきました。私の想いに厚みをつけていただいたようで、すごくうれしかったです。ありがとうございました。
皆さんの感想を聞いて、お気持ちはいかがですか?
Paulaさん: 大変恐れ多い気持ちで拝聴しておりました。感謝の気持ちでいっぱいです。認めていただいてうれしいです。 やはり自分が手掛けたものを他のアーティストの方に評価していただけるのは、私自身、そして私だけではなくチームで取り組んだフィルムなのでチーム全員にとって大変励みになります。インスピレーションも与えていただいて本当にうれしいです。
“間”や“儚さ”が生む、日本独自の美意識。 音楽や建築の中に息づく時間の哲学が浮かび上がる。
続いては、“時”をテーマに、お話をお伺いしたいと思います。フィルムの中でもお話がありましたように“時”と“文化”はとても密接な物だと思いますが、日本の“時”の捉え方が、日本の文化にどのような影響を与えていると思いますか?
MISIAさん: 一つは映像の中でも話された“間”の取り方もあると思うんですけれども、時間の捉え方として、息を合わせる、一呼吸置くというように、呼吸の仕方を使って時間を表すことがあるので、私の息づかいをしっかり感じてくださるミュージシャンとは非常に息の合った、本当にタイミングの合った演奏をすることができます。 すでに私たちは息を合わせるという概念を持っているので、タイミングを合わせてほしいときに、私が息を吸っているところを見てくださいとか、一緒に息を吸うタイミングを合わせて演奏してみてという言葉一つでニュアンスが伝わるんです。ですので、音楽を創る上では日本のこの時間の捉え方というものから非常に影響を受けているなと感じます。
隈研吾さん: 儚いから、今の時間を大事にしよう。今を美しく生きようっていう、そういう儚さと美しさがつながっているというのは世界でも他にあまりないような“時”の捉え方だと思うんです。 これは世界の人が探しているものにすごく近いものが、日本の“時”にはあるんじゃないかなと。 服部さんがこれから、この“時”の流れの儚さを世界に伝えていただいたらすごくいいんじゃないかなと思っています。
服部CEO: フィルムの中で都倉さんが「二度と時間は戻らない」ということを話されていますが、それもまた“儚さ”なのだと思います。 日本では古来から明治の初めの頃までは不定時法が使われていました。時間という概念がなかったわけです。しかしそういった中で、自然と共生する“時”の感覚が育まれました。これが日本人の感覚で、それは日本の文化の根源だと思うんです。日の出から日の入りまでの時間を夏も冬も等分に分ける。大方の時間を肌で感じる。それが自然と共生する“時”の感覚だと思うんです。隈さんに設計していただいたグランドセイコースタジオ 雫石も自然との共生から生まれた日本の文化、クラフトマンシップを世界に発信する素晴らしい場所だと思っております。
MISIAさんは音楽と平和、隈さんは建築の時間、 服部CEOは自ら刻む時間こそ最高の贈り物と語る。
ご自身にとっての「GIFT OF TIME」 とはなんでしょうか?
MISIAさん: 積み重ねた中で豊かになっていくもの、“時”を重ねる中で豊かになったものをGIFT OF TIMEと感じますので、一つはやはり「音楽」だと思います。また、もう一つは世界中の人が求めているもの、「平和」かなと感じます。
隈研吾さん: 僕は仕事の中で、“時”をデザインするということに関わらせていただいていると思っています。 建築はその中にどういう“時”が流れるか、これからどう流れていくのかをデザインすることができます。そういった“時”に関わる仕事をさせていただいていることがギフトだと感じます。
服部CEO: MISIAさんが平和とおっしゃいましたけれども、本当に音楽というのは平和になるきっかけだと思います。 COVIDの後、やはり“時”の流れというものが変わってきて、“時”の尊さや重みが増してきたと思うんです。皆に平等に与えられた“時”を、いかに過ごすか。そしていかにまた自分でデザインするかということが非常に大事で、自分の好きな場所で、自ら時間を刻んでいく。そういう喜びこそが最高のラグジュアリーであり、それがまた“時”のギフトだと思っております。
MISIAさんは“時”を超える歌を、隈さんは日本の時間感覚を世界へ。 Paulaさんは映像で心を動かし、服部CEOは創業精神を受け継ぎ価値創造に挑む。
最後に、これからの“時”についてお聞かせください。限りある“時”の中で、“これから”挑戦したいことはありますか?
MISIAさん: 私はやはり、これからも多くの方に歌を聴いていただいて、そして願わくば“時”を超えるような、100年、200年皆さまの心に届くような歌がうたえたら嬉しいなと思います。
隈研吾さん: COVIDの後での時間という話もありましたが、COVIDの後、人類全員が時間の尊さみたいなものに気付いたと思います。日本人はもしかしたらちょっと早く気づいていたかもしれません。この日本人の時間感覚みたいなものを世界に伝えていきたいと思っています。
Paulaさん: 私自身、これからの映像作品の中で何か深いメッセージを伝えていけたらと思っています。それによって見てくださった方が行動を起こしたり、何かしようという気持ちになるような、そんな感情を呼び起こす映像を作りたいと思います。 私が携わった映像作品を見てくださった方が小さな教訓ですとか、知恵を受け取り、そこから何か変化を起こしたり新たなことに挑戦したり、あるいは今までと違う見方で世界を捉えていただくきっかけになれば私も幸せですし、大変満たされる思いです。
服部CEO: 私たちの会社は3年前に創業140周年を迎えました。そのときにわれわれは、社会課題を解決する、ソリューションカンパニーになろうという宣言をいたしました。もともとこのソリューションという言葉は、創業者の服部金太郎が時計のない時代に、正確な“時”を伝えるんだということで、フィルムにもありましたように時計塔をつくり、鐘を鳴らして地域社会の人々に“時”を知らせたことにつながります。正確な“時”を伝えることこそが、その時代のソリューションであったということです。そういうことを考えますと、今この先行き不透明なVUCAの時代に、大事なのはやはり創業精神にたち返ることだと思っています。お客さまや社会のため、社会課題を解決するという創業精神に基づく原点回帰は、現代社会への責任、そして私の使命と言える挑戦だと考えています。
ショートフィルムの ご視聴はこちら
THE GIFT OF TIME - 時と生きる - Short film