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【前編】日本にいながらジャズ留学?生きたジャズに触れるサマーキャンプをレポート

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【前編】日本にいながらジャズ留学?生きたジャズに触れるサマーキャンプをレポート

魂が揺さぶられるような濃密な4日間を、2人の参加者にフォーカスしてレポート

朝から強い日差しが照りつける8月12日、今年もジャズ・ミュージシャンを目指す若者の登竜門「Seiko Summer Jazz Camp(SSJC)」がスタートを切った。

2016年からスタートしたSSJCは、東京・本郷の尚美ミュージックカレッジのキャンパスを舞台に4回目の開催。
世界を舞台に活躍する演奏家たちを講師に招き、今年は「If you can sing it, you can play it!(歌えるなら演奏できる)」をテーマに掲げ、さまざまな実践的アプローチで“生きたジャズ”を心技体に叩き込んでいく。

業界内での注目度と共に応募者数も増し、講師による厳正なる審査を勝ち抜いた、16歳から25歳までの男女40名の参加が決定。
魂が揺さぶられるような濃密な4日間を、今年は2人の参加者にフォーカスしながら前編・後編に分けてレポートする。

SEIKO Summer Jazz Campの魅力

SSJCでは、徹底的に考え抜かれたカリキュラムが特徴の一つ。
初日から3日間の午前中は、5つのグループに分かれてスモールアンサンブルを、午後はホーン・セクションとリズム・セクション、ヴォーカルごとに、ビッグバンドでのパフォーマンスを体験する。さらに楽器ごとに分かれての講義や、作曲と編曲について学ぶ時間も設けられるなど、4日間という限られた時間を最大に生かし、さまざまなアプローチでジャズの真髄に触れることができる。

講師陣には、2度のグラミー賞受賞経験を持つマイケル・ディーズ(トロンボーン)をはじめ、大林武司(ピアノ)、中村恭士(ベース)、ヨタム・シルバースタイン(ギター)、ベニー・ベナック(トランペット)、シェネル・ジョンズ(ヴォーカル)、クインシー・デイヴィス(ドラム)、ディエゴ・リヴェラ(サックス)、そして特別顧問に守屋純子を迎え、これ以上はない布陣が組まれている。

期待の逸材からバリスタまで。参加者のジャズキャンプへの意気込み

北海道から参加した治田七海さんは、トロンボーンに魅せられた17歳。
金管バンドに所属したことをきっかけにジャズにハマり、小学3年生でトロンボーンをスタート。
お小遣いのほとんどをジャズのレコードに費やし、ほぼ独学でありながら、中学生の頃から年上のミュージシャンに混ざってライブの経験を積んできたという逸材だ。

5つのグループに分かれて行うスモールアンサンブルでは、トロンボーン奏者のマイケル・ディーズのクラスにエントリー。
「憧れのマイケルに直々に教えてもらえるなんて夢のよう。今日の午前中だけでもプロがどのように変拍子を演奏しているか具体的に学ぶことができた。楽し過ぎて緊張している暇などない。実は明日もライブに参加するのだけど、すぐに実践したいことがたくさん!きっと調子がいいと思う」と声を弾ませる。

ピアノ部門で参加する名倉慶佑さんは、世界で活躍できるバリスタを目指し、オーストラリア・メルボルンへの珈琲留学を控えた25歳。
人生の大きな転機を前に、「本当は好きだったピアノをもう一度好きになるチャンスにしたい」という気持ちで応募したと言う。

彼がエントリーされたスモールアンサンブルのクラスでは、サックスのディエゴ・リヴェラがレクチャーを担当。
「ただ音を出すのではなく、どうやったら音楽が生きるのかを考えよう」というアドバイスのもと、ジャズのスタンダードで肩慣らしを行う。

まだ緊張が解けない様子の名倉さんは、ディエゴの一挙手一投足を目で追いながらピアノを演奏。
「ジャズにおけるスウィングの重要性について再認識。学んだことをしっかり消化して最終日に形にできるよう頑張りたい」と意気込みを語る。

大切なのは、頭の中でメロディーを鳴らし続けること

その他のスモールアンサンブルのクラスでも、熱量の高いレクチャーが展開。
「とにかくジャズのスタンダードを数多く覚えるように。ハンク・ジョーンズは優に1,000曲を譜面なしで弾けたというよ」(ヨタム)というプロを目指すための心構えから、「バンドのチューニングの基本となるのはピアノ。ベースやギターなど他の楽器と音程を合わせる時には、ペダルを踏まないように。音色や音量も含む音程をコントロールする力を身につけることが、演奏の際にも生きてくる」(大林)といった具体的なものまで身になるアドバイスが飛び交う。

講師によりアプローチは異なるものの、皆が異口同音に唱えるのが演奏中に他の人達が鳴らす音をよく聴く重要性。プロのミュージシャンは、まわりの音色・ピッチを瞬時に正確に捉えて、自分の楽器をブレンドさせるよう演奏する能力が不可欠なのだと言う。そのためにも、自分のパートが休みの間も常に頭の中でメロディーを鳴らし続けること。アドバイスを受けてから行ったセッションは、グルーヴが生まれエンディングもバシッと決まり、受講生たちにも思わず笑みがこぼれる。

ジャズキャンプのテーマに込められた意味

お昼休憩を挟んで行われた午後のカリキュラムでは、ホーン・セクションとリズム・セクション、ヴォーカルごとに、ビッグバンドでの演奏を体験。
午前中は距離感のあった受講生たちも、演奏を経てコミュニケーションが活性化し、ジャズを愛する仲間として深いところで繋がっていく様子がひしひしと伝わってくる。
「コピーするときは、まずそのフレーズで真似て歌うこと。楽器で演奏するのは、聴いて歌って楽曲をしっかりと理解してから。歌えないものは演奏できないし、歌えたら演奏できるんだ」と、今回のテーマである「If you can sing it, you can play it!」に込められた意味も解説される。

そして初日のラストとなるのが、座学によるマスタークラス。
マイケル先生が教鞭を執り、ビッグバンド、ビバップ、クールジャズのすべてを学んで新しいスタイルを築いたマイルス・ディヴィスの「So what」を徹底分析。
さまざまな長さのフレーズを組み合わせて展開させていくことで、少ない音数でもドラマティックなストーリーが表現できることが解説される。
ここまでで計6時間とは思えない濃密な一日のカリキュラム終了。刺激的な初日を経て受講生達たちの表情が演奏がどう変化していくのか、期待が高まる。

後編はこちら

【後編】日本にいながらジャズ留学?生きたジャズに触れるサマーキャンプをレポート(別窓で開く)

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