染色家
柚木沙弥郎時問時答

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時間ギリギリまで考えるのが楽しい。

制作をされている時はどのような時間が流れていますか?

ずーっと考えている時間が長いんですよ。だから、実際に手を動かすのは集中すれば時間短いの。それでね、歳をとると、動きが鈍いでしょ?皆さんに想像がつかないくらいのろいの。それを今の、現在の状態に合わすっていうのは、土台無理なんですよ。大体ここの階段の上、上がんなきゃ仕事場に行けないの。そこの階段を上がるのが大変。クライミングみたいに。そういうことの繰り返しですからね。

日々、時間について思われることはありますか?

もうちょっとゆっくりやりたいな。そうしないといい仕事できないですよ。だから時間いっぱいにやる。締め切りがあればギリギリまで。最後には、できますね。それがいちばん、楽しいからね。やっている時は。

柚木沙弥郎

作品を仕上げるまでのプロセスについて教えてください。

何度もやって、その中で良いのを決定版でやりますね。「これだ!」って思うのは締め切り間際。だから、いつまでにやってくれって言われなかったら、それも困るね。きりがなくて。だけどそういうふうに、なんていうかなぁ……。注文っていうか、そういうのを待っているっていうこともあるけれども、本当は何にもなくて、自主的にやりたいことをやるっていうのが理想ですけれども、そうもいかないね。やっぱり僕らは、注文があれば嬉しいから何でも引き受けちゃうでしょ? それをこなすのは大変ね。

制作のテーマはどのように見つけていますか?

まぁ、いろんなポケットっていうか、引き出しっていうか、その中にあるものをね、思い出すっていうか。昔作ったものを思い出すっていうんじゃなくて、引き出しはいつも開けたことのない引き出しを開けてね。「これだ」っていうのを見つけた時は嬉しいですね、やっぱり。

アイデアの“引き出し”には、どのようなものが詰まっているのでしょうか?

普段そういうことを考えていないと、引き出しはいつも空っぽ。だけどね、空にしなきゃ入らないんですよ。受け取るのにはやっぱり、自分がいろんなことにね、自縄自縛になっているんですよ。自由でないの。だから仕事と関係ないね、いろんなことの悩みがあるでしょ?肩の荷をずーっと下ろしていくと、みんな自由になる。そういうのがあったのが 80 くらいになった時、僕は。

柚木沙弥郎

自由になったのが、80 歳。

「物心がついたのは 8 0歳の時」とおっしゃっています。作品にも変化はありましたか?

今までは思いもつかなかったものを作るとかね。新鮮ですよ。とにかくこういう仕事は自由でなきゃできないね。そういう自由になるっていうことが大変なの。自然になれば理想だけれども、なんていうかなぁ……。自分の外側に鎧のようなものを着ている感じね。それをなくしていくと自由になる。年取っちゃうと、いい具合にそういうものがなくなるのよ。

私たちの世代が自由になるのはまだまだ難しいですか?

それはやっぱり、家族がいればね。特に若い時は、仕事しないわけにはいかない。だけど今の仕事と同じなんだけども、数を作る、量産、今はそういうことしないもんね、しないでいいから。

今の忙しさについてどのように感じられますか?

今の忙しさ? 忙しい反面、嬉しいね。

忙しい中での嬉しさとはどのようなものでしょうか?

それはねやっぱりね、相手が理解して注文してくれれば嬉しいね。何にも、注文主がこっちのことを知らないよね、普通。だけども、人間っていうのはさ、出会った時に「この人とは合うな」っていう、瞬間的にわかるじゃない。初めてはじめて会ってもね。その意思がお互いに通じる時、そういうのだったら嬉しいし、こっちもやる気になりますね。

希望の星が見える作品を作りたい。

作品を作る時に大切にされていることは何ですか?

僕は大体ね、生命感。生命感っていうのは生きてるっていうことね、それが大事になるの。だから死んだような、死んだようなっていうことは無いけど、どこ見てるんだか分からないような人と相対するのは苦痛ですね。だからね、お互いが生きているっていうことね。生き生きしたものを作りたいとこっちは思うでしょう。向こうもそういうものを欲しているっていう時は、うまく合うんですよ。

柚木沙弥郎

普段、何を思いながら作っていらっしゃいますか?

作りながら考えるんですよ。そのプロセス、その間に、こうしたら、ああしたら、もっとこうしたほうがいいとか。だから最初に設計図をこしらえちゃって、その通りにやるというのは、僕らはできないね。つまらないね。

ゴールを決めずに作り始めるのでしょうか?

やっているうちにだんだん、だんだん固まってくるっていうか、まとまってくる。その間、それが大事ね。

良い作品とは、どのような作品だと思いますか?

ただ技術だけじゃないな。技術だけで作ったものは、あまり面白いと思わないね。その人の実感がないんだよ。その人間の、今、あなたはどういうことに生きがいを感じているかとか、それで僕は大事だなということを悟ったわけ。だから、かつての成功したことだとか、学歴だとか、経歴だとか、そういうことは聞かないでね。今、あなたは何をしているか。結論言っちゃうと、今が一番大事なんですよ。年齢で言うと、今は、皆さんの歳、私の歳、みんなそう、あるでしょう? 歳はどうでもいいとは言いながら、今何をするか、何をしたいか、それが大事だと思うなあ。それを思ったのが、80 の時ですよ。

著書の中で暮らしの話をされていましたが、「大事に暮らす」とはどのようなことですか?

大事に暮らすというのは、その時その時の今をね、丁寧に暮らす。だから今、どうしたらいいか、何をしたらいいか。しなきゃいけないことってある。

これからやりたいことはありますか?

これからやりたいことはね。やっぱり今の時代っていうのは、どっかに自分の希望の星っていうのがね、見えないんだよ。それをね、見えるように、何か作品に残すっていうのは作者の義務のように思うんです。だからやっぱり、コロナとか関係なく、やっぱりもっと世の中、社会が良くなるのにはどうしたら良いかっていうことを考えたい。

ワクワクし続けるためには何をすべきでしょうか?

自分でね、自発的に、ワクワクするように発見する、見つける。自分でやるっていうことです。掴む。それは難しいけれど、なんでも面白がる。楽しく。そういうのは、やっぱり訓練。生まれつきもあるけれどね。条件の悪い中でも、何かこっちが見つければ楽しいんですよ。

柚木沙弥郎
(撮影:Norio Kidera)
※本内容は音声でお聴きいただくことも可能です。文章では話の内容をよりわかりやすくするために言葉の調整や補足をした箇所があります。音声と文章、どちらもお楽しみいただければと思います。

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プロフィール

柚木沙弥郎
柚木沙弥郎 染色家

東京都北区田端出身。画家の父のもとに生まれる。美術史を学ぼうと東京大学に進学するが、第二次世界大戦の学徒動員で中断。戦後、民族模様の型染めに出会い、型染めの第一人者で人間国宝でもある芹沢銈介のもとへ弟子入り。以降、染色家として数々の作品を発表し国内外で高い評価を受ける。近年では、版画や絵本、ガラス絵、またお面や人形などにも取り組み、自らの表現を追究し続けている。

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