落語家
立川こはる時問時答

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落語に没入してもらう場づくりから。

落語家を続ける上で、大事にしていることはありますか?

やっぱりいい空間を作って、お客さん達がわざわざご足労かけて来てくださって2時間とか、私一人が、ただ喋っているものを聞いてくださるっていうお時間なので。その間、より心地よく、あるいは落語の世界を楽しんでいただく、あるいは、こはるの喋った内容を楽しんでそこに没頭していただくための空間作りだと思うので。できれば、そういうのが伝わりやすい会場だったり、椅子の配置でしたり、照明のライトの明るさでしたり。そういうのも自分でコーディネート、プロデュースするっていうのは大事だと思います。

マネジメントまで自分で行うというのは、落語界では珍しいことなのでしょうか?

立川流っていうところに、私はいるんですけど。落語立川一門というのは、実は寄席という場所に出ていなくて。寄席っていうのは4箇所、それと国立演芸場入れると5箇所なのですが。前座の間からそうやって、毎日落語家さん達がいるような世界、落語協会とかそういうところとは違う育ち方をしてまして。寄席にそもそも出ていない。なので、落語を喋るために自分で場所を探して、自分でお客さんを見つけて、そこで喋らせていただくっていうスタイルで、ずっと育ってきているので。自分で場所を探してっていうところから、まず落語をするために草むらの草刈りをし始めるようなスタイルで育てていただいて、ここまで来たっていうことですね。

もう一度味わいたい、「無」の時間。

立川こはる

落語家を志すきっかけは何だったのでしょうか?

元々私の師匠・談春に入門しようと思った時に、学生の時に落語を聞いていて。その古典落語自体が、もう噺が好きっていうのはあったのですが。聞くのとやるのは違うっていう時に、私は「人を圧倒させられる人」として、うちの師匠はもうすごいと思ったんですね。談春が伝える迫力・話芸・リアル性みたいなものは、どうやったら伝えられるんだろうっていうところに興味がとてもあって。ただダジャレ言って面白いこと言って、ほんわかして、「あ!落語って面白かったね」っていう落語家さんとは全く違う。なんですかね、それこそ、ここの日本橋亭で初めて談春の舞台を観たんです。迫力から、説得力から、もう息ができなくなるような、胸が詰まるような感覚っていうものを、初めて落語で衝撃を受けた。そういう技術含めて人を圧倒させられる、人を取り込める力を持ちたいって思ったのがスタートですね。

披露する噺は、毎回どのように決めているのでしょうか?

最初は頑張って、ネタの数を増やして覚えました。発表会といいますか、自分の勉強会っていうものがあったんですけれども。段々そうではなくて、「立川こはるを観たいよ」って言ってくださるようなところへ伺った時に、お客さん達が出会うまで一期一会ってよく言うんですけれども。その日のそのお客さん達っていうのは、そこの現場に行かないと出会うことが出来ないので。「もうこの噺、聞き飽きたよ」っていうような落語マニアばかりの集団なのか、「なんか初めてなんで、落語のイロハもわかりません」っていう人たちばかりの空間なのか。そこで選ぶネタを変えるっていう。もちろん幾つか候補は作っていくんですけれども。そこのお客さんたちが、入り口としてこんなお噺はどうでしょうかとか、そういうふうに。なので、ネタはあまり決めずに行くっていうことが増えましたね。

立川こはる

こはるさんにとって、高座に立つ時間とは、どのような時間なのでしょうか?

リアルタイムにやりながら、結構ジャズと似てるって落語はよく言われるんですけれども。お客さんの反応次第で、なんですかね、自分の中でも演じてて、無意識のうちにとても迫力が出たり、あるいは、押さえ込んだりっていうのが変化、お互いのお客さんの反応も同時に変化していくんですね。同じセリフで、同じ噺であっても。それを楽しめる余裕がある時は、すごく「あ、お客さんと心が繋がって嬉しいな」っていうような気分、高揚感と言いますか。これはなかなか舞台に上がってないと感じられないものだと思うんです。あともう一つは、「あ!お客さんがなんか首傾げてるな」とか、「ああスベってるな」と思いながら、「頑張れ!もうちょっと何をやればいいんだ、自分は今」っていうのを一生懸命考えている時間もありますし。あとは、人生でほとんど無いですけれども、去年の 10 月に「小猿七之助(こざるしちのすけ)」という談志師匠、うちの師匠が、談春がやってきた噺っていうのがあるんですが。それはもう噺に取り組むのに必死で、難しい噺なんですよ。お客さんの前でやったんですけれども、もうお客さんの反応とかを全く関係なく、噺に正面切って取り組んで。なんですかね、自分が何かを反芻したり、今セリフ間違ったとか、そういうことすら何もないぐらい無の時間っていうのは、初めての経験でしたね。完全にもう、その演者の役割のセリフを喋りながらその世界を、ひたすら積み上げていくっていう。もう何にも無いですよ。お腹空いたとか、ウケたとかウケなかったとか、もう何にも無いんですよ。なんですかその、ゾーンみたいな。評価も何も、欲も無いというか、無の状態っていうのはあれは初めてで。どうやったらあれがもう一回味わえるのか分からないんですけれども。不思議な時間がありました。

立川こはる

落語家を続ける上で、一番幸せを感じるのはどのような瞬間なのでしょうか?

拍手もらえるとね、もうやめられないですね。嬉しいですね。出て来た時に、もちろん拍手をいただく、「ああ、受け入れられるんだ」っていう喜びもありますし、落語をそこからやってウケていただく。帰りに拍手で見送ってくださるわけですよ。その時に、「よくやった!」の拍手なのか、「また観たい」なのか、「初めて観て、すごかった」のか分からないんですが、ものすごく降ってくるような拍手を浴びて戻るっていう。その間 15 分でも 20 分でも、本当に、幸せですね。

「自分を練る」時間が欲しい。

落語をする以外で、今後どんな時間を過ごしたいですか?

もっとインプットの時間が欲しいんですよね。いろんなことに興味が出るので。もちろんお稽古、落語のお稽古以外にも、お芝居観に行ったり、演劇観に行ったり、後は三味線のお稽古をしたり、踊りの稽古したりっていう、そういう日本の伝統芸能もありますし。あとはお寺に行ってお坊さん、和尚さんのお話を聞く、「神社って何なんだ」とか。日本人の根本的な感覚、なんとなくみたいなのとかあるじゃないですか、空気とか。そういうものを表現化していくところで、もっといろんなものをインプットしたいと思っています。ちょっと今までは、ずっと自分が立川こはるで名前を出す、売れるみたいなところに一生懸命なところがあったし、もちろん落語もいっぱい頑張って覚えなきゃ、みたいな直線的なものが多かったんですが。もうちょっと落語の舞台でお客さんと面と向かって、千本試合じゃないですけれども。場数を踏む時間以外に、より究極化した練っていくものを作るためのインプットの時間をもっと作りたい、作れるはずだっていう風に思いました。人の話を聞いたりとか、そういう時間が欲しいなって。

立川こはる
(撮影:Aya Kawachi)
※本内容は音声でお聴きいただくことも可能です。文章では話の内容をよりわかりやすくするために言葉の調整や補足をした箇所があります。音声と文章、どちらもお楽しみいただければと思います。

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プロフィール

立川こはる
立川こはる 落語家

落語立川流の落語家。立川談春の一番弟子。大学時代に立川談春の落語に衝撃を受け、落語家になる事を決意。2006年、原稿用紙28枚に渡る入門希望書を書き立川流に入門。「女性は落語家に向かない」と公言していた立川談志率いる立川一門初の女性門下となる。その後、前座として修業を積み2012年には二つ目に昇進。2020年からの一年間は真打昇進の修業のため裏方仕事に徹していたが、2021年の「春談春」から高座に復帰。真打昇進を目指す。

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