学芸員
北嶋由紀時問時答

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アイヌに流れる、ゆっくりとした時間。

アイヌの民族衣装を初めてご覧になった時、どのような印象を受けましたか?

自分はアイヌ民族だっていうことは知っていたんですけれど、それに関わろうと思ったことはなかったんですよね。30 代半ば位まで。だけど関わっていないということに対する後ろめたさもありながら、生きてはいたんですよね。たぶんデザインだとは思うんですけれど、本当に衝撃的で。「ああ、すごいなこれ」って。「この力強さは何なんだろう」と思って。だけど近くで見たらすごく文様とか、糸刺繍がすごく細かかったり、繊細だったりするのを見て「この文化が自分の中にあったのに、今までやってなかったのはもったいないな」とか、「なぜこれを遠ざけてしまったんだろう」とか、いろいろ考えたことはありますね。

北嶋由紀

アイヌ民族には、どのような時間が流れていたのでしょうか?

1 つのことに集中できるゆっくりした時間が流れていたんじゃないのかな、と私は思っていて。ものを作るのでも、そこの集中した時間がないと、手とかも乱れていきますし。あの文様を描くとか、あの文様をデザインできる時間っていうのは、そんなせかせかしている中でできるものではないと思いますので。昔の人たちは、ゆっくりとした自分たちのための、っていう言葉もちょっとどうなのかわからないですけど、ゆっくりとした時間が流れていたんじゃないのかなと思いますね。今マルチタスクとか言って、やっている側からいろんな情報が入ってきて、いろんなことを処理しながらやっていかなきゃいけないっていう慌ただしい時代になってきた。私の小さい頃から(振り返って)みただけでも、全然時代が変わっているんですよね。だから昔の、布がやっと手に入るようになった時代ですとか、樹皮とか皮を剥いで、その剥いだ皮を糸にしてそれから織り機に通してとか、糸を織る用意をしてとか、そういうことをしていた時代とは、今は全然時間の流れ、時間の速さは違うんだろうなと思います。

陽の光のもとで、楽器を弾く。服を作る。

北嶋由紀

北嶋さんが考える、アイヌ文化の魅力を教えてください。

私やっぱりものを作っているので。アイヌのものって左右対称のものもあるんですけど、左右非対称になっているものもあるんですよね。私にものを教えてくださった方は、「自然のものに左右対称のものはないんだから、文様だって左右非対称になったっていいんだよ」って。自分の自由。ある程度、作り方に決まりはあるんですよ、「ここから縫いなさい」とか。そういうのはあるんですけど、「デザインについては自由にしていいよ」っていう感じで、私は教えていただいているんですよね。私は小さい時から、なぜか人と違うことが好きだったり、人と違うものを選んでしまったり、それに対して自分がちょっと周りと違うというので、ちょっと落ち込んだりしていた時もあるんですけれど。実はこれは、私の中に入っていたアイヌのDNAで、自由にしてもいいよって言われているのかなってすごく感じちゃって。「こうしなさい」「ああしなさい」じゃなくて、「自由に好きなように、自分で個性を磨いて生きていっていいんだよ」と言われたような気がしたんですよね、ものを作っていて。だから、アイヌ文化でって言われるとちょっと難しいんですけれど、自分が実際にものを作って思ったことは、縛られることなく、自分の好きなことをしていいっていうのを、着物とか、私にものを教えてくれた先生から教えていただいたと思っています。それって今の世の中でも、「こうしなきゃだめ」「ああしなきゃだめ」っていう、きつきつで大変な時代だなと思うんですけれど。もしかしたらアイヌだけじゃなくて、和人の人にもそういうDNAがあるのかもしれないので。なんかもっと、ゆったりゆっくり過ごすことができたらいいんじゃないかなって思います。自分らしく生きる場所を見つけたっていう気がします。

好きな時間の過ごし方を教えてください。

私はやっぱりものを作っている時が大好きなので。どの着物を作ろうかなって考えたり、自分でアイヌ文様もデザインとかするので、そういうものもデザインしながら「作っている時間」が一番幸せなのと、アイヌの歌も結構好きなので、トンコリっていう楽器を弾きながら歌っていたり。あと沖縄の文化とかも。沖縄もすごくゆっくり時間が流れている場所だなと私は思っていて、そこの三線っていう楽器を弾きながら歌っていたりとか。なんでしょうね……やっぱり、ゆっくり自由に自分の好きなことをやっているのが一番、楽しいです。トンコリとか三線とかを浜とかに持って行って、海辺で歌っていたりとか。適当に外に着物とかを持っていって、外で縫物をしていたりとか。本当に、狭いところじゃなくて、こうゆったりした場所で自分の好きなことを、日の光を浴びながらゆっくりやっていましたね。

アイヌのことが好きで好きでたまらない。

北嶋由紀

学芸員を続ける上で、大切にしているのはどのようなことですか?

私の願望としては、広く皆さんに知ってもらうものとしてもちろん特別展でもやるし、その町その町のアイヌ文化の紹介も、私はアイヌの立場としてでもいいし何の立場でもいいんですけれど。例えば自分が浦河町出身なので浦河町のアイヌの人たちはここういう歴史があるんですよーとか。浦河だけじゃなく、阿寒ですとか二風谷ですとか、そういうところの、アイヌの人たちだけじゃなくて、そこで一緒に生きている和人の人たちとか。絶対に協力しながら生きていると思うので、そういう歴史をちゃんと、いろんな人たちに知っていただきたいなと思っています。

これからの時代を担う若い世代に、今後伝えていきたいことはありますか?

開館記念特別展をやっている時も若い子が来てくださって、アイヌのこと何もしてなかった(=知らなかった)らしいんですけど、展示とか見て、すごく良かったらしいんですよね。「自分もちょっと(アイヌ文化について学ぶことを)始めてみようかな」って言ってくれた子供がいて、それだけでもやって良かったなって思いましたね。だから、何がきっかけでこの世界に入ってくるのかはわからないんですけれど、入ってきてくれた人たちには、もう、全力でというか、この文化はすごく楽しいよっていうことを伝えていけたらなと思います。

今後、一層力を入れたいご活動はありますか?

私以上にアイヌ文化を好きな、アイヌじゃない人がたくさんいて、その人たちの中で過ごせたから私はこんなにアイヌのことが好きになったと思っているので。アイヌのことを好きだと思ってくれた人たちを、ずっとその気持ちのままでいてもらえるように、何ができるのかはちょっと今わからないんですけど、そういう活動ができたらいいなと思っていますね。

アイヌへの思いに変化はありますか?

好きで好きでたまらなくなってしまって。自分がアイヌじゃないことは想像できないですね。信じられないですね、なぜ遠ざけてしまったのか、後悔しています。もっと早くこの気持ちになっていれば、もっと楽だったのにって思いますね。

北嶋由紀
※本内容は音声でお聴きいただくことも可能です。文章では話の内容をよりわかりやすくするために言葉の調整や補足をした箇所があります。音声と文章、どちらもお楽しみいただければと思います。

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プロフィール

北嶋由紀
北嶋由紀 学芸員

北海道浦河町出身。小学5年生の時、自分がアイヌにルーツを持つことを知る。2010年に、アイヌ民族の子弟を対象にした「ウレㇱパ奨学金制度」を知り札幌大学文化学部に進学。大学ではアイヌ文化を学ぶウレㇱパクラブで伝統技術を撮影・記録する活動を行う。2014年同大学を卒業。現在、2020年北海道老白町に開館した、アイヌ文化発信のための国立施設「ウポポイ」で学芸員を努める。

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